ACT.1 アンチヒーロー⑥
「勘違いとはなんだ」
『話せば長い。だが今はそんな悠長に喋ってる暇はないのは分かるだろ?』
「簡単に話せ」
今の今まで身を潜めて状況を的確に整理していた総司はヴァンドラの様子を伺った中で腑に落ちない点について語る。
疑問点は複数ある。だが、ヴァンドラの言うように暴走気味のアズリューリュの術の発動のタイムリミットを計算すれば長々と話している暇はない。
総司はヴァンドラの言葉に重みがあるかどうかで偽証を問うた。
結論から言えば、それは嘘偽りは無いように見えた。
だからすぐさま行動に移す。
「【終界(ジ・アウト)】」
爆発的な力を収束させているアズリューリュに気配を読ませる前に呼称する。
呼称と共に空間が一瞬だけ歪み、場が静寂に包まれた。無音の空間が場を支配している光景を目の当たりに出来るのは総司だけだった。
所謂、時間静止能力。
これが総司に授けられた能力の一つ。
あらゆる法則を無視して、強制的に現象全ての行動をシャットアウトする事が可能。
タイムリミットの制限やその他のリスクはあるが、呼称一つで発動する利点はデメリットを帳消しにするだけの力がある。
現実、ヴァンドラ程の猛者やアズリューリュのような神に近しい超越者でもこの能力の範囲に触れていれば抗う事は出来ない。
「【失楽園(ジ・ロスト】」
そしてもう一つ。
一空間に発言される超常現象を全て無に帰し、元あった場所や術者に根源として返還する事象遮断能力を同時に展開する。
発動条件は任意の物質や生物に一定時間触れなくてはならない事。
条件さえクリアしてしまえば対象の外界に発動した力は術者の体内に返還され、一時的に力の本質に制限が設けられる。
制限された対象は故意で力を取り戻すのに数時間から数日が科せられてしまう。
ただし、総司にも何かしらのリスクが生じる事は逃れられず、また、一つ一つの能力は高頻度で使用出来るものではない。
それに関しては本人も承知の上である。
時が静止し、暴走気味のアズリューリュに触れる事で術の強制解除を見届けてから元の姿に戻ったアズリューリュを抱きかかえて地面に着地する。
そして能力の発動を解除する事で、完全に危機を脱した。
当の本人は初回で二つの能力を同時発動させた事による疲労が一気にのしかかり、足腰ままならないまま近くの石積みに腰を据えた。
「さ、流石に痛みが蓄積されてきて・・・ない」
素っ頓狂な第一声を発するアズリューリュ。
自身の置かれた状況を把握するまでに長い時間を有した。
でもそれが誰の仕業なのかは一目瞭然だった為、総司に抗議の嵐が降りかかった。
ヴァンドラは苛烈な状況が治っていた事については特段口出しはしないようだが、総司の存在について思慮深く魅入っている。
『とりあえず俺たちの本部に来てくれないか?聞きたい事も、話しておきたい事も、会わせたい奴もいる』
「ふざけないでもらえますか?アシュナ様の仇とお茶なんてでき」
「わかった」
ヴァンドラの提案に対して怒りを剥き出しにして食ってかかろうとした所を、二つ返事で了承する総司に呆気に取られるアズリューリュ。
あからさまに不機嫌な態度を出そうとしたが、力に制限がかかっている事に気付き、せめて口出しだけでもと思った矢先に、口を摘んだ。
手をグーパーグーパーする動きを見てからの反応、よほどアイアンクローが嫌だったのだろう、小言を言う他無かったようだった。
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