ACT.1 アンチヒーロー⑤


「【万象・天装着脱(アークパージ】」



巨体な男が名乗った瞬間に小声で呟くアズリューリュ。

その表情は暗く、どこか翳りのある双眸は先程までの余裕に満ちた雰囲気とは真逆に思えた。


術式の呼称が合図となり、頭上と足元に魔法陣が発現しては粒子状の円柱がアズリューリュを包む。


そして光の柱が輝きを弱めるなり、アズリューリュの容姿が見え隠れしているが、そこに幼児体型の彼女の影は微塵も無かった。



真紅のおかっぱ頭と子供のようなタレ目は長髪、キレ目へと開花し、幼稚園児のような体型はモデル体型へと変貌、さらには妖艶美と双翼を兼ね備える変わりように周囲は目を配る。



「まさか地上へ降り立ってすぐに力を解放するとは想定外もいいとこですね」


『おぉ、あの時の姉さんと同類なのか!これはまた楽しめそうだ』


「黙れ下郎。アシュナ様への報い、受けてもらいます!」



何も無い場所に手を翳すなり、空間に穴が生じる。

そこに手を入れて取り出したのはアズリューリュの身の丈と同等サイズのスピアと顔の形をした盾。


取り出すなり何の躊躇も無く、翼を利用した加速で一気に距離を縮めヴァンドラの強靭な肉体に向けて突きを放つ。


ただの突きではなく、スピアの柄以外の投身が高速で回転しドリルのような動作をしている。



「報い?そんな大層な事をした覚えはないんだがなぁ」



直一閃に突出する突きに対して、あっけらかんとした態度を示すヴァンドラ。

焦燥感はまるで無く、迫ってくる刃先に対しておもむろに手を出しては回転軸を握力だけで静止してしまう。


回転が止まる直前に「あちち」と間の抜けた言葉だけを残して、スピアは元の形状を保てなくなり粉砕される。



「化け物が。【万象・天ノ涙星(アークレイン)】」



スピアを捨て、地上を蹴っては宙に飛び立ち、手を空に翳す。

すると再び、大きめの魔法陣が展開され無数の光の粒石が地上、ヴァンドラ目掛けて降り注ぐ。


まるで流星群の如くとめどない数量が放出される。


が、ヴァンドラは白い歯を剥き出しにして微笑み、肩に預けてあった大斧を下から上へ一振り。

その一撃で爆風と衝撃波が重なり、流星群と相殺させた。

それだけに止まらず、衝撃波は粒石の術者であるアズリューリュにまで干渉し、大きく吹き飛ばされた。



(くっ!?実力差がありすぎですよ)



焦燥しているのは明らかにアズリューリュの方だった。

自らの攻防を一瞬にして看破される事象が予測の範囲を大きく上回っていたからだ。



『姉さん、何か勘違いしているようだから少し話をしないか?』



「だまれだまれ!【万象・光尽龍華(レイスドラゴン)】



有利な立場にあるヴァンドラの提案は余計にアズリューリュの神経を逆撫でする。


感情の暴走を気に両腕を大きく広げるなり、背中に魔法陣が展開。

粒子が腕に集中しては苦悶の表情を浮かべるアズリューリュ。

内部に粒子が入っていく度に刻まれていく龍の模様が完成形に近くごとに痛覚は増し、表情はより険しくなっていく。



『大技とくるか。勘違いされたまま怪我はさせたくねぇんだがな』



頭を掻いて野暮を言葉にするヴァンドラ。

次に来るのが今までと違う事を見抜いてはいるようだが、無防備にすればこちら側にも被害が多少なりとも出る事を優先して考えた結果、大斧から再び火炎が噴き出す。


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