ACT.1アンチヒーロー③


状況は不利から最悪に変わった。

が、このポンコツは把握してないのか、はたまた出来ないのかが定かでは無いが、周辺をみっちり固められてしまい逃亡は困難となったにも関わらず、傍若無人な態度に変化はない。



「この私にそんなものを向けてる時点で愚かな種族ですよ!って言ってるのと変わらないのに、そんなに群れて何がしたいんですか?」


『我々は勇者。世界の治安を守る為には、まず不安要素を排除するのが鉄則だ。悪いが、大人しく捕まってもらう』


「勇者ねぇ。この世界の勇者様御一行は本当にレベルが低いですね。」


『貴様・・・そんなに死に急ぎたいか!』



わざわざ怒りを買うような言い方しやがって。



「倫理に反し、己の心情を最優先する辺り、低脳もいいとこですよ。少し、痛い目を見てもらうとしましょうか」



そんな事を言うなり、アズリューリュはおもむろに空に向けて手を翳す。

その行動一つで周辺が変化している事に総司と総司に剣を向けていた勇者はいち早く気付く。


他の勇者の頭上にはハテナが浮かんでいるようで気付けてないようだが、実際は何かが起きる前触れのように思えた。


おおらかな風は止み、身を潜めていた小動物達の気配は消えている。

踊るように揺れていた木々の葉も静寂も保ち、場に変異が訪れていた。



「【万象・翔刃衆】」



刹那。


止んでいた風が急激に突風となってアズリューリュを軸につむじを精製し、木々から葉を巻き込んで一気に竜巻へと昇華する。


砂埃が舞い込んでいる為視界が悪く、強風の勢いあって体勢が崩される勇者達。


生じた隙を利用して総司は自身に牙を向いていた対象の懐に入り込み、手首を捻って得物を落とさせ、そのままの勢いを利用して一本背負いで対象を制圧してのけた。



「さぁ。いつでも、どこからでも来てもらって構いませんよ?痛い目にあってもいいよ!って方からどうぞ」



気付けば竜巻は収まり、絶対的自信に満ち溢れたアズリューリュの声が聞こえてくる。

そしてさらなる状況の変化に勇者達、いやその場に居た全員の表情からは強張りが見えた。


それはそうだろう。


消失した竜巻のかわりに複数人の翼を生やした神官のような人々がアズリューリュを守護するような形で佇んでいた。


白を基調にした装束に身を纏う狐の面を付けた部隊。

陰陽師を意識させるかのような風貌の彼らは一斉に拳を構え、準備万端な姿勢を見せる。



『くっ、召喚士風情が我等に抗えると思うな!』



痺れを切らした一人の勇者が剣を振う。

渾身が籠るように躊躇の無い一撃。だが、それはあまりにも単調で怒り任せの一振り。


初列で構えていた守護者は軽々と横にステップし、剣の峰に掌底を見舞って剣自体を弾き飛ばし、無防備になった勇者の正面に瞬時に移動しては脇腹に一発、降りてきた顔面にアッパーを一発見舞い、華麗なコンビネーションのみで鎮圧してみせた。



「召喚士?そんな低俗な者と一緒にされては困りますよ。彼らは私を護衛する【天使】さん達です」


『世迷言を!!』


『ま、待て!』


仲間をやられて逆上した仲間の勇者が攻勢に出る。


総司が抑えている勇者の制止を他所に怒りを露わにして槍を突き出した。

中列に居た守護者が2対で動き、直線上に出たやりの峰を左右から掌底で破壊し、そのままの勢いで軸足を回転させて距離を縮め左右同時に上段蹴りを当て、これもまた鎮圧した。


全ての動きに予備動作は無く、機械的な瞬発力だけで倒してしまった。


対象の行動不能を確認すると、同じ場所に戻って構えるという一連の流れを繰り返している辺り、あながち機械という言葉は間違っていない。



「もう分かりましたよね?【天使】さん達に貴方達が敵うはずありませんよ。早々に謝罪するっていうなら許してあげなくもないです」


『『『オラァァァ!!』』』



反省するわけでも、心が折れたわけでもない勇者達は単体で動く事を辞め、複数で一斉に襲いかかる。


アズリューリュはやれやれと言った感じで呆れているように思える。


勇者の数に応じて守護者達も散開し、交戦する。



『馬鹿者が』



が、あからさまに実力差がある為か、次々と倒されては戦闘不能に陥っていく有様に取り押さえられている勇者が悪態を吐く。



「お前はソイツらとは違うようだな」


『一緒にするな!コイツらと俺では【クラス】が違う。伊達に部隊長をしているわけではない!』


「部隊長、ね」



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