ACT.1 アンチヒーロー②



「あのー、先行っちゃわないんですか?」


「・・・」


「いつまでもこんなとこで物思いに老けてる時間は無いと思うんですけど」


「・・・」


「聞いてますかぁー?無視する事を徹底する前にまずは行動をですね」


「黙れ」


「あ、い、いたいいたいいたいっ!!」


「状況を整理し、如何に危険を排除するかが今後の習わしになる事が分からないのか?これ以上、喚くようなら全力で潰す」



ギギギッと鈍音がアズリューリュのこめかみから響き、絶叫する当人を他所に総司の声音に色はない。


淡々とアイアンクローを決め、宙に浮かせて身動きを封じ、思った事だけを口に出す事で立派な脅迫と暴力が成立する



『抵抗すればどうなるかは分かるな?』



ただ、ここで一つの障害が生じる。


アズリューリュの絶叫が予想以上に大きく、森林の木々に反響して広範囲に知れ渡ってしまった。


それにより、動植物以外の呼気や複数の足跡に気付く事が出来ず、気付いた時には背後を取られていた。


しかも対象は鋭利な得物を携えて、首元に切先を向けている。冷やかな感覚が総司の直感に危険信号を送り、顔色は変えないが、手の力を緩めざるおえなかった。



『良い判断だ』



力を緩めた事でアズは地面に落ち、総司に切先を向けていた者ではない別の手が保護するような形で距離を置く。


切先は変わらず首元に差し向けられていて身動きは出来ない。


だが、感覚を研ぎ澄ませるにはちょうど良い立ち位置にあり、状況把握に尽力を注ぐ事は出来た。



まずは視覚、聴覚、インスピレーションからの情報。


・まず間違いなく只者では無い事。

・ある程度の死合を経験していないと醸し出せない雰囲気、計画性、行動力がある事。

・軽装ではあるが、各々が武装している事。

・小隊編成、もしくは中隊での団体組織である可能性が高い事。

・今まで当たり前のように出会していた小動物達の影が消えた事。


これらをつなぎ合わせると分が悪く、交戦なくして脱出が厳しいというイメージが脳内に浮かぶ。


総司は考える。これが単独なら逃走経路を導くのに大した思考は必要ないと。

問題はアズリューリュが抑えられているという事がネックになっているだけ。



『あ、君!暴れなくて大丈夫だって!もう怖い大人は居ないーーぐぇっ』



このまま自分が悪者を演じてアズリューリュを残して行く算段で8割から決めていると、突拍子もないマヌケな声が前方から聞こえてくる。



「レディの身体に無造作で触るとこういう目に合うのです。さぞ痛いでしょうね?男性にとっては急所ですから」



優しく介抱してくれていたはずの者を破廉恥扱いした挙句、下部位の急所を思いっきり足蹴にしたアズリューリュは変わらず高圧的に、憐れみタップリに皮肉を言ってのけた。


流石の総司も呆気に取られてしまい、思考が止まってしまっている。



「下等な種が恐れ多き高位の私に触れるなんて、汚らわしい以外、何者でもないです」

 


ただ分かる事が一つ。


状況は圧倒的に不利になってしまったという事だ。


・・・コイツ、本当に神の使いなの?

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