星団散歩

魚田羊/海鮮焼きそば

星の石

 遠く越してきて大学へ。都道府県の壁に阻まれて新生活よーいどんの号砲と同時に転倒。さっそく都会の真ん中でひとりぼっち。そんなときは、散歩で深夜の空気を浴びたい。

 歩道橋を踏みしめ、上に持ち上げる。そのたびに重力を振り切れそうな気がして0.8秒後に裏切られる。繰り返し。でも、何回目かに運動エネルギーが位置エネルギーに変わらなくなって、放り出された。天球からテグスで引っ張られているみたいに、すーっと真上へ向くベクトル。

 足元に意識を向けた少しの間に、都会の夜景は遥か星になっていた。赤い煙のようなものが、龍のかたちでわたしの上を飛ぶ。はっと理解した。ここは、宇宙だ。さっきのは恒星。天体の重力も圧力もバカみたいな温度も、高校までで学んだことはなぜかわたしを滅ぼしていかない。生きている。宇宙とはこんなだったのだ。

 呼ばれた気がして宙を蹴る。瞬間、びゅん、と。虹色の龍は何光年も後ろに消えていく。代わりに何かが近づいてくる。

 すたっと着地。ねずみ色の岩が地面を造っていた。広く、ひろおく、なにもない。

 違う。遠くでなにかが跳ねている。かたちはよく見えない。でも、よろこぶみたいに跳ねている。きっとがわたしを呼んだ。も、ずっとひとりぼっちだったのだろうか。何億光年先に飛び込んだら、わたしと同じ孤独を背負い込む存在がいた、

 胸のごわごわとした暗雲は左右に退いて、わたしはどこか満足した。

 この星を飛び降りる。

 ベクトルは下。

 糸はない。

 着地。


 歩道橋。

 深夜のまま。

 衝撃は透明だった。

 遅れて、からんからん。

 落ちてきたねずみ色の石を拾い上げる。あの星だ。今までのことは錯視なんかではなかった。笑えてしまう。踏み出して、また踏み出して降りて、歩道橋四段目からこの地球を蹴り飛ばす。

 着地。衝撃は透明じゃなくて、ずうんと膝が悲鳴をあげた。おかえり、重力。

 星の石はまだ、離さずにいる。

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星団散歩 魚田羊/海鮮焼きそば @tabun_menrui

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