夜をスっとばセ!!!!

こまの ととと

第1話

 真夜中の峠。

 それは走り屋たちの熱きフィールド。


 だが今夜は少し違った。


「やめるんだ君! 危ないから止まるんだ!」

「はん! そんなに俺を止めたきゃ走りで止めてみなァ腰抜け!!」

「……なんだと小僧が。マシンの性能に走らされるだけの奴が何を言ってやがる!」


 何故、車に乗りながら相手の声が聞こえるかなど、どうでもいい事だ。

 ミニパトカーを駆る警官は、ヘアピンに差し掛かったところで勝負を仕掛ける。

 狙うは内側、側溝ギリギリまで鼻を差し込みドリフトを仕掛ける。

 その鋭いハンドル捌きは見事、相手のマシンをぶち抜いてみせた!

 それでも相手の方が優勢であることに変わりはない。ここからストレートで抜き去ればよいのだから。

 余裕を崩す事なく男は呟いた。


「はっ、軽だぁ? ずいぶん可愛いのに乗ってんじゃねえかよ!」

「四輪駆動で粋がってる程度で止められるものかよ!!」


 両車の馬力差は百を超える。それでもバトルが成立するのは偏に警官の腕が優れていたからだ。

 しかし、相手の男もさるもので。

 二人は夜の帳に熱を吹かせ、峠を駆け下りていった。


 湧き上がるギャラリー。

 どっちだ!? どっちが、速い!!?


 峠において絶対の正義は一つ、誰が速いかだけだ。

 加速する熱情は、金属の悲鳴となりて、夜空へと響かせる。


「「うおおおおお!!!」


 最後のコーナー。ここを抜ければ、いかにパワーがあろうと関係ない!

 その先にはゴールしかないのだから。


「抜かせねええ!!」

「だから甘いんだよ小僧ッ!!」


 決めたのは警官。

 パワーコントロールを誤った男はアンダーを出して外側に大きく膨らんでいった!!


「ば、馬鹿な!!?」

「場数が違うんだよ!!」


 膨らんでいく男の4WDを横目に、ミニパトカーは颯爽と過ぎ去っていく。


 この夜、新たな伝説が誕生した瞬間であった!!





「えぇ……、何これ?」


 深夜に起きて、麓の自販機に飲み物を買いに来ていた女の子は呟いた。

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