深夜のお誘い
オカメ颯記
真夜中のお誘い
僕の趣味は真夜中の散歩だ。
誰も歩いていない暗い道を一人でてくてくと歩く。
孤独な趣味のようにみえるけれど、そうではない。僕にはたくさんのフレンドがいる。そして一緒に歩いてくれる相棒がいる。
携帯の中だけど。
昼間、忙しく仕事をしている僕はいささか太り気味だった。その運動不足の解消にいいだろうと勧められたのが、このスマホゲームだ。
僕が歩けば歩くほど、スマホの中の相棒が育っていく。そして、時々出会うリアルな同志たちと連携してもっと強くなる。
僕はいつの間にか、そのゲームに熱中していた。
今日も、仕事が終わってから僕は誰もいない住宅街を歩く。
街灯の明かりしかない道は薄暗い。でもこの人気のなさが大好きだ。
今育てているのは一押しのフェアリーちゃん。ゲームの人気キャラクターでいろいろな形態に進化する。その中でも最難関な形態に僕のフェアリーちゃんは進化しかけていた。
お? 前にたたずむ人影に僕は足を止めた。
こんなところで人を見かけるとは。
それも、女の子だ。
高校生なのか。白い襟の際立つ制服がまぶしい。長い髪が白い制服の背中で揺れている。
あまり近づいてはいけない気がして僕は足を止めた。
そうだ、こんな子に近づくと変態呼ばわりされるかもしれない。警察官に見られたら、何と思われるだろうか。
僕はぬいぐるみを連れた少女に背を向けて別の道に向かおうと思った。
えっと、ぬいぐるみ?
僕はもう一度少女のほうを向いてしげしげと彼女を観察した。
ぬいぐるみだ。茶色の、クマ? それも宙に浮いている。
「行け」少女が一言いうと、クマは高速で少女の背景に咲く大きな花の咲く木に突進していく。
散る花びらと、それと格闘をする空を飛ぶ熊。
きっと僕は夢を見ているのだ。寝ている時までゲームをしている夢を見るなんてゲーム廃人かもしれない。どこか冷静に僕は判断を下す。
うん、花が近づいてくる。まるで、ゲームに出てくるフェアリーちゃんみたいに。
でも、なんだかとても怖い。この花、まるで僕を取って食いそうな、そんな感じが……
「下がって」
いつの間にか、少女が僕と花の間に入っていた。
僕は後ずさりをして暗闇に入る。
ああ、目の前で散る花の光が美しいこと……
歯をむき出したホラーなフェアリーちゃんをみるまでは。よい夢だった。
「馬鹿」
少女の陰から闇が飛び出す。
闇は悪夢のようなフェアリーちゃんに襲い掛かり、あっという間に花の散る幻影は消えた。
後に残るのは、高校生と僕だけ。
クマのぬいぐるみもどこかへ消えていた。
女の子はきついまなざしで僕をにらむ。
「見えたの?」
「え? なにが?」
「あなた、妖精が見えるのね」
ゲーム関連の話以外で妖精なんて聞くことはない。それが、こんな少女の口から洩れるなんて。まだ僕は夢の中にいるのだろうか。
「そう。一族以外にあれが見える人がいるなんて」
少女は何かを考えているようだ。
「ねぇ、携帯番号教えて。メールアドレスでも、なんでもいいわ。連絡が取れる方法であれば」
これは、逆ナンパという奴だろうか。一生ありえないと思っていた状況に僕の心は乱れた。
美少女からアドレスを聞かれるなんて……
もちろん僕はすべてを教えた。彼女の髪から臭うかすかな花の香に僕は酔う。
冷静に考えればわかったはずだった。僕にこんな誘いをしてくるのは、モノを売りつけたい人か詐欺師だということを。
そして、彼女は、そんなものよりも数倍たちの悪い組織の一員だった。
僕はこの時情報を渡したことを生涯悔いることになった。
深夜のお誘い オカメ颯記 @okamekana001
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