船が離れていく
@a123456789
第1話 水溜りを踏んだ日
カーテンから差し込んだ朝の光が私の制服を明るい色に染める。私は光に囲まれている。
今日は私の13歳の誕生日!幸運にも、私にはこの特別な日を盛大に祝ってくれる親友が二人もいる。
ユウコとマリ。頭につけたすみれの髪飾りだって二人とおそろい。通学中の電車の窓に映るだけで嬉しい気持ちになるんだ。学校に着いて教室に入る。軽快な足取りは思わぬ一言で止まることになった。
「あんたとはもう遊ばない」
風で髪が揺れていた。ユウコは目を合わせることもなく私にそう言い放った。今まで見たことのない表情だった。冷蔵庫の奥に放置された腐ったバターを見るみたいな目だった。捨てるのも面倒だという風に。
「私、何かした?なんでも言って。意味が分からない」
「もう遅い」
マリに助けを求めようとするが、映画の気まずいシーンを避けるみたいに窓の外を見ている。
光を受けて輝いていたはずの私の制服は、高いビルに囲まれた路地裏みたいになってた。
その日の帰り道は人生最悪だった。
水溜りを踏んで飛び跳ねた水滴が私の脚にかかって、ほっぺを流れ落ちる涙もこの水滴ってことにした。
土手を通ると思い出す。帰り道、先生のモノマネを披露するユウコにお腹を抱えて笑うマリ。嫌いな先生だったからあのときは私、本気でそのモノマネを嫌がっていたんだけど、今はいつまでも見ていたい。なんでだろ?
家に帰ると、お母さんとお姉ちゃんが近所の空手教室のチラシを見せてきた。普段はユウコとマリと遊んでいたから習い事なんてする時間は無かったんだけど、その日は違った。涙で赤く腫れた私の目を見たお姉ちゃんは笑いながら「グーパンでやり返せ!」って言ってきた。そうすることにした。
それから私達は卒業式の日まで一言も口をきかなかった。今も、水溜りを踏み続けている。
船が離れていく @a123456789
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