10.二人のけじめ(9/10)
そんなことなどつゆ知らず、勇者と魔王はただ一心不乱に、目の前の好敵手を倒すことにだけ全力を注いでいた。
勇者にとって、ここまで自分と互角に戦える相手も、魔元素がここまで消費させられたことも、自分の本気がどれほどのものなのか試すことができたのも、今回が初めてだった。
魔王にとって、魔王としての外聞も、これまで自分を取り巻いていたしがらみも忘れて、封じられていたその先を見るために力を振るうことができたのは初めてだった。
最初に勇者はけじめと言った。それを魔王は彼をぶっ飛ばすいい大義名分になると考えた。
「てめえいい加減当たりやがれってんだ! こっちがどれだけの量剣を転換してると思ってやがる!」
『お前こそいい加減倒れやがれ! 俺だってもう普通の奴ならとっくにくたばってる数ぶっ飛ばしてんだよ!』
ののしり合い、愚痴り合い、それでもなお戦う手は止まらない。
剣の兜のその下で、竹籠に隠れたはりぼての頭で、お互いどんな顔をしているかもわかりあわないまま二人は殺し合う。
不意に、勇者が空を埋め尽くす剣の切っ先をすべて魔王に向けた。魔王もそれを感じ取り、ふと空を見上げる。
「くたばれ!」
勇者が挙げた手を振り下ろすと同時に、すべての剣が一斉に魔王に向けて降り注いだ。
『うるせえぶっ飛べ!』
もはや雨というよりは滝と形容すべき剣の群れに対して、魔王は特大の種を真上に放り上げ爆破した。二人の攻撃は相殺され、轟音と地震、そして衝撃波が、彼らの戦いを見守っていたメイガン達にも襲い掛かる。
身を守る《障壁》がみしみしと音を立て、思わず杖を握るレンの手に力が入る。ひび割れさせながらも耐え抜いた《障壁》を修復させ、中にいた五人は二人の方を見やる。
勇者は肩で息をしていた。《光刃―山嵐―》を解き、流れる汗を乱雑にぬぐう。
魔王は指先を震わせていた。勇者の猛攻を耐え抜いた姿勢のまま、爆破の衝撃で壊れた竹籠を頭から振り落とす。
「……はは」
『……はっ』
そして、どちらともなく笑い始めた。
――強いやつと戦えるとなったら、やっぱりわくわくするよな!?
いつかメイメイが言った言葉が、クチナシの脳裏によぎる。
あの時は分からないと言って濁したが、今なら彼女の言う言葉が理解できる。
そしてそれは、きっと目の前の勇者も同じなのだろうということも。
魔王の手に、膨れ上がり続ける巨大な種が転換されていく。
勇者の頭上に、先端から作り上げられていく特大の光る剣が転換されていく。
今更、言葉を交わす必要はない。お互いの転換術が言葉の代わりだ。
――次で最後だ。俺の全部をぶつけるから、お前の全部を見せてみろ。
そうして出来上がった空飛ぶ剣の鯨と、はち切れんばかりの種を抱えて、二人は攻撃を放った。
種と剣がぶつかり合った瞬間、辺りはまばゆい光に包まれた。爆発のように広がるそれはメイガン達の目の前でぴたりと止まり、半球形を形どった光は、衝撃も、爆風も、音も、何もかもを吹き飛ばしてしまった。
やがて半球形の光が中心へと収束し消失すると、勇者と魔王が先ほどと同じ位置に立っているのが見えた。お互い傷らしい傷は見当たらず、手を伸ばせば届きそうなところに立ったまま動かない。
そして、魔元素を使い果たした二人は、その場に同時に倒れ込んだ。
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