10.二人のけじめ(8/10)

 大地はそこかしこを抉られ、元々草地だった面影はどこにもない。


 空を埋め尽くす勇者の《光刃》が、魔王目掛けて雨あられのように絶えず降り注ぐ。それを魔王は《炸裂》で破壊し、わずかにできた隙間から種を狙い撃つ。


 勇者が避ける間もなく、魔王の狙い通りに勇者の左肩に着弾した種が起爆する。しかし、勇者は無傷どころか、魔王の攻撃に怯むことすらなく魔王に近づいていく。


《光刃―山嵐やまあらし―》


 幾層にも重なって一切の隙間なく全身を覆い尽くす《光刃》の鎧は、折れて壊れた一番外側の刃をすぐさま次の《光刃》が補填し、中の勇者に攻撃を届かせない。


 続けざまにもう一発種を飛ばそうと魔王が構えるも、それを阻むように彼の頭目掛けて光の剣が飛んでくる。《感知》で素早く剣の存在に気付いた魔王がそれを躱すと、地面に着弾した《光刃》は地響きと共に大きな穴を一つ増やした。


 そうしている間にも勇者は魔王との距離を詰めきり、彼目掛けて殴り掛かる。触れるだけでも刃に切り刻まれる攻防一体の鎧に身を包んだ勇者は、ただ手足を振り回すだけでも相手を死に至らしめる脅威の存在となっていた。


 だが魔王も黙ってはいない。《炸裂》で一度大きく真後ろに跳躍すると、より大きな種を転換するために一瞬のためを作る。追撃のために勇者が一歩前に踏み出した瞬間、あらかじめ地面に撒いておいた種が一斉に起爆する。


 勇者が地雷の衝撃に飲まれてできた隙を魔王は見逃さず、作り終えた種を勇者目掛けて投げつけ起爆した。先ほどよりも一際大きな爆音と地面を抉るほどの衝撃が、周囲に無作為に襲い掛かる。


 生身の人間ならば跡形すら残らないほどの爆発だった。


 それでもなお勇者は鎧を壊されただけで、本体には傷一つつけられていない。


「どういうことよこれ……」


 先行したアイとレンに追いついたケイは、勇者と魔王の戦いを見て絶句した。


 目の前で繰り広げられる小さな戦争に、ケイは参戦できないまま茫然と立ち尽くす二人に問いかける。


「アイ、レン。これは一体どういうことなの……?」

「し、知らないわよ……」

「私達が来た時にはもうこうなってて、こんなの、私達の入り込む余地なんて……」


 レンがその場にへたり込みながら項垂れている。アイは生まれたての小鹿のように脚を震えさせなんとか立ってはいるものの、それでもそれから全く動くことができないでいる。


「そりゃそうさ。この国を単身で亡ぼせるような存在同士の戦いなんだよ? 私達がどうこうできるような問題なはずないじゃないか」


 そんな彼女達の背後から、メイガンののんびりとした声が聞こえてきた。


「で、でも勇者様は、こんな力一度も見せたこと……」

「あるわけないだろう。本気を出してしまえば国を丸ごと潰せる力を持っていて、なおかつ周りにはそれを振るわずとも勝ててしまう相手しかいなかったんだ。彼が本気になれたのは、これまでの人生で今日が初めてだろうよ」


 そこでふと、思い出したようにメイガンはへたり込むレンに言う。


「そうそう、レンちゃんだっけか。君は障壁を転換しなよ? こっちに攻撃が飛んできてなくても、その余波だけで死にかねないからね」


 返事もろくにできないまま、レンは涙目になりながら《障壁》を転換する。


 ケイも、アイも、レンも、そしてキンカもとっくに理解はしていた。彼らは自分達よりも強大な転換術を、自分達以上の速度で放つことができる。


 だが、その上限は彼女達の遥か上、もはや想像もつかないような領域に達していた。


 メイガンの言う通り、彼らの戦いに、彼女達が入り込む余地などない。

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