10.二人のけじめ(7/10)

 それを聴いて、ケイは苦々しい表情を見せる。仮に彼女の言うことが本当で、勇者も同じような思惑で魔王と一対一を申し込んだのならば、今メイガンを責めたところで意味がない。


 ケイに一瞬迷いが見られたその瞬間、彼女の真横からしゃらりと剣が引き抜かれる音が聞こえた。見ると、アイが腰の剣を抜き、切っ先をメイガンに向けている。


「ちょ、ちょっとアイ!?」

「ケイはあいつの言うことを真に受け過ぎよ。魔王さえ倒せば王国に平和が訪れる。その事実は変わらない。第一、どうしてあいつの言うことを聴かなくちゃいけないのかしら」


 ケイがふと背後を振り返ると、レンも同じようにメイガンに敵意をむき出しにし、杖を構えて戦闘準備に入っていた。


 王国の人間からすれば、魔王とその信奉者の言うことを聴く必要は全くない。それどころか、彼らの言い分にどれほどの正当性があるのかは疑わしく、信じるに値するだけの信ぴょう性に至っては全くない。


 ましてや、悪意を持って自分達を騙そうとしている可能性すらある相手を、どうして信じろといえるのだろうか。


「ふむ、確かにそうかもしれないね」


 だが、メイガンはそんな二人を目にしても、余裕の表情を崩さない。


「だがまあ、二人の戦闘はもう始まっているんだ。真偽を確かめるのはそれを見届けてからでも遅くはないんじゃないかい? 君達も勇者の仲間なんだから拒みはしない。一緒に観戦しようじゃないか」

「誰が観戦なんて……!」


 精一杯メイガンを睨みつけるアイだったが、勇者と魔王の戦闘が既に始まっていることは事実だ。ならば、今優先すべきはメイガンの相手ではなく、勇者の援護ではないのか。


 そう考え直し、アイは転換術を駆使して勇者が墜落した場所へと猛スピードで駆け出していった。レンもアイと同じ考えに至ったようで、踵を返して処刑場から走り去ってしまう。


「まったく、話くらい聴いて行ってもいいじゃないか……。君もそうは思わないかい?」


 少し残念そうにつぶやくメイガンは、唯一勇者の元へ行かなかったパーティメンバー、ケイに視線を向ける。


 その視線から逃げるように、ケイはメイガンから目を背けた。明らかに迷いの色が目に映る中、ケイは自分の考えをまとめながら口を開く。


「……正直、アイとレンのやったことが正解だと思う。あなたの言うことを聴く義理はないし、なにより、魔王を倒すことが私達の使命なのだもの」


 そう呟いた後で、彼女は「でも」と続けた。


「勇者様は私達に『俺のやりたいようにさせてくれ』って頭を下げたわ。あなたが勇者様に何を吹き込んだのかは知らないけれど、それでも、私は勇者様のやりたいことをさせてあげたい」

「大好きなんだねえ。彼のこと」


 メイガンの言葉に、ケイは顔を赤くして黙り込んだ。それをいうならばアイとレンも一緒だ。勇者と同じパーティに入った三人とも、心から彼のことを慕っている。そして、そのことを三人ともはっきりと自覚している。


 何も言わなくなってしまったケイに対し、メイガンもそれ以上追及はせず、勇者と魔王の戦いに話を戻した。


「もちろん、参戦はしないけど観戦はするつもりだし、君にもその権利はある。隣り合ってゆっくり彼らの戦いを見届けようじゃないか」

「でも、アイとレンが……」

「ああ、それに関しては気にしなくてもいい」


 少し驚いたように顔を上げたケイに、メイガンが憎たらしい笑みを湛えて言い放つ。


「ただの一般人が、あの二人の全力の戦いに入っていけると本気で思っているのかい?」

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