10.二人のけじめ(6/10)
勇者相手に攻撃と防御を同時に担えるようになったクチナシから、時間を稼ぐことが難しいと判断した勇者は、一度クチナシへの攻撃を止め、足場の作成と防御に全力を注ぐことに切り替える。
クチナシも勇者の狙いに気付くと、素早く彼の真上に陣取って攻撃を集中させた。クチナシからの攻撃を防ぎ切ったとしても、足場を作ることができなければ勇者は地面に墜落する。その速度を速めるために、彼の直上から爆風を浴びせ続けた。
防戦一方となる勇者だが、防御に徹することができたおかげで足場となる剣の転換が間に合った。だが、地面との激突こそ免れたものの、背中から足場に落ちた勇者の息が詰まり一瞬隙が生まれる。
そのほんのわずかな隙に、クチナシは先ほどまでの《炸裂》よりもさらに強力な威力の種を転換する。ほんの少しための時間を要する種を転換し終え、勇者に向けて突きつける。
『ぶっ飛べ!』
クチナシの叫び声とともに種が一直線に勇者目掛けて飛んでいき、勇者の胸元までたどり着いた瞬間爆音をまき散らしながら弾けた。
新しい剣を転換する暇もなかった勇者は、咄嗟に足場にしていた剣と位置を反転させて盾とした。なんとか爆発を防いだ勇者は再度足場を作り上げると、煙の中を進みクチナシと同じ高度まで上昇する。
だが、咄嗟に盾とした剣ではクチナシの攻撃を防ぎ切れなかったらしい。足場とした剣への落下も響いているようで、勇者はクチナシを睨みつけながら荒く息を吐いている。
一方クチナシも、大きすぎる魔元素量の扱いに慣れず、逆に自身の力に振り回されるきらいがあった。特に勇者の全方位からの攻撃を防ぎ切った時は、反応速度を高めようとするあまり転換術の精度を極限まで上げた結果、神経を余分にすり減らしている。
空中に留まる二人がお互いをにらみ合いながら呼吸を整える。それが終わると、打ち合わせでもしたかのように再び二人同時に動き出した。
高速で国の外に向かいながら行われる二人の目まぐるしい攻防は、流れ星のように徐々にその高度を落としていき、ついには処刑場から見えないところへ落ちていった。
遠くから聞こえる、未だ続く戦闘音を耳にしながら、メイガンはキンカに声をかける。
「さて、それじゃ私達も移動しようか。ここじゃ二人の戦いを見ることができないからね」
「は、はい!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
まるで遠足にでも向かう口ぶりで話すメイガンに口を挟んだのは、勇者のパーティメンバーの三人だった。
魔王と闘うために組まれたにも関わらず、いざ実際に闘うという時に、参戦を禁止されるなど不満も募る。その不満は、当然のように彼を唆したであろうメイガンに向けられた。
「あなたなんでしょ、勇者様を唆したのは! 一体どういうつもりなのよ!」
「どういうつもり、ねえ。私は二人が今何をすべきかを伝えただけだよ?」
「二人が何をすべきか、ですって?」
今にも腰の剣を抜かんと手を掛けるアイを手で押さえ、ケイがメイガンの言葉をおうむ返しにする。
彼女のその行動ににやりと笑みを浮かべながら、メイガンが続ける。
「勇者と魔王、この二つの存在は一体なんなのか。先にも言った通り、それを解明することは、神話通りに魔王を一方的に打ち滅ぼすことよりも優先すべきだと、私は考えていてね」
人差し指を天に向け、くるくると回しながらメイガンは語る。
「それができる環境を作るためには、まずは二人に今までのしがらみを清算してもらわなければならない。それが今、私が彼らにしてもらいたいことで、勇者に頼んだことだよ」
彼自身、何かしら思うところはあったみたいだしねと、メイガンは付け加えた。
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