2.かかってこい晩飯!(3/4)

「冗談キツイっスよクチナシさん! 本当に狩りをするなんて聴いてない!」

『そういえば、できることは任せてくれって言っていたよな。ならそいつの相手はお前に任せる』


「ウチ一人であれの相手をしろって言うんスか!?」

『当然だろう。相手は転換術も使えないような小型の魔獣だ。言っておくが、これくらいの相手にも勝てないようならば、むしろこの旅についてきた方が危険だからな。ああそうだ。嫌になったらいつでも言ってくれていいんだぞ?』


 キンカはちらと背後にいるクチナシを横目で見た。彼は椅子代わりにしている倒木に座り込み、頬杖をついてこちらを見たまま動かない。どうやら本当にキンカに手を貸す気はないようだ。


「あーもう分かったっスよ。やればいいんでしょやれば! ほらかかってこい晩飯!」


 キンカの怒鳴り声を合図に、猪の魔獣がキンカ目掛けて突進を仕掛けてきた。放たれた矢のようにまっすぐに猛進してくる魔獣に触れてしまえば、小柄なキンカはひとたまりもないだろう。


 だが、キンカもただ黙ってやられるような人物ではない。魔獣の突進に合わせて即座に魔元素を転換させ、地面からタケノコが伸びるように鋼の槍を幾本も展開する。


 ただがむしゃらに突っ込んでくる魔獣が、キンカの繰り出した槍衾を避けられるはずもなく、自身の力を利用されて全身を貫かれていく。細い槍をへし折りひしゃげさせながら、牙と角がキンカの目前まで突きつけられたが、そこで勢いを完全に殺され、魔獣の足は完全に止まった。


 キンカはまだ闘志を燃やす魔獣の胴体と地面を鎖でつなぎ、暴れる魔獣を無理やり制止させる。完全に魔獣の動きを封じてから邪魔になる槍衾を消し去ると、魔獣の直上、空中に魔元素を集め、とどめの一撃を繰り出すために最後の転換術を行使していく。


「これで、終わりっスよ!」


 猪の魔獣よりもなお巨大な、出刃包丁のような無骨な刃が完成すると、キンカはそれを魔獣の首目掛けて一思いに振り下ろした。


 ごきりと首の骨がへし切れる音と、ずどんと刃が大地にめり込む音がして、真っ二つに分割された魔獣の頭と胴体がその場にばたりと崩れ落ちる。


「……これでどうっスか?」


 一息ついたキンカは、その一部始終を見ていたクチナシに向かって言い放つ。


 問われたクチナシは、どろどろと血を流し続ける魔獣の頭を見つめて考え込み、そしてぼそりと呟いた。


『……正直、こうも上手くやれるとは思っていなかった。歳の割には上出来だ』


「本当っスか!? いやー、カカットに居た頃も、山に罠を仕掛けて動物を獲ったりしたことはあるんスけど、あんな大きな魔獣と戦ったのはさすがに初めてだったんで緊張したっスよ」


 嬉しそうに顔を綻ばせるキンカに、クチナシは頷いて反応を返す。


 クチナシの評価は紛れもない本心だった。突然始まった戦闘と魔獣の攻撃に冷静に対処してみせ、かつ流れるように手早くとどめをさした。迷いなく次々と行使してみせた転換術も、彼女がどれほど術を扱いこなしているかを示すには十分だ。


 そして何よりクチナシを驚かせたのが、この一連の行動を、十歳そこそこの女の子がやってのけたということだ。彼女と同じくらいの歳の頃の自分では、到底同じことはできないと感心すらしていた。

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