第6話
「なーに、見てんのっ?」
そんな幻聴が聞こえた。ニュースに目を通していると、一人の少女が私の目に飛び込んでくるような気がした。次の日の図書室は、酷く閑散としていて、何か作業をするにしても静かすぎてやる気が起らない。空っぽになってしまった空間。それが、私にお似合いだと思えば、皮肉のようで少しは面白かったが、しかし笑うことは出来なかった。
人生とホログラムは似ている。存在すると思うから存在する。本来は空っぽで、意味を与えているのは私たちの認識だからだ。
思えば、
〈ヴィアヴァスタ〉の場合もそうだ。私にとってのそれと、
いまだって、ほら……
「永遠に超えられない壁が……出来ちゃったじゃん。
当然、静まり返った図書室から返答はない。けれど、きっと彼女なら「
だから、〈ヴィアヴァスタ〉は私にとって神様でなければならない。統計データ処理マシーンごときであってはいけない。
どうしてこんなにも、
「〈ヴィアヴァスタ〉……。私の生きる意味って?」
ふと問いかけてみる。当然、回答には期待していない。私の過去の実績と統計処理されたデータから導かれた解が言い渡されるだけだ。人生相談にも乗ってくれる神様を装ってはいるが、所詮は過去の傾向をまとめたレポート。〈ヴィアヴァスタ〉に未来は存在していない。
『
「……」
『それとも、次なる任務情報の提供がお望みでしょうか? 情報管理局執行部隊に所属する
人生相談のはずなのに、仕事を押し付けて来るとは、やはりポンコツだ。きっと、〈明星の悪魔使い〉として恐れられている
「そう言うってことは、場所分かったんだ」
『ベーカリー「ルセロ・デル・アルバ」付近で、怪しげな人物が確認されました。分析の結果、高確率で
目撃地点の名前に、「そう」と私は静かに瞳を閉じた。まったく、〈明星の悪魔使い〉も酷いことをするものだ。ベーカリー「ルセロ・デル・アルバ」と名付けられたパン屋。そこは、今度一緒に行こうと
*****
その夜、私はベーカリー「ルセロ・デル・アルバ」がある付近を巡回していた。さすがに、夜も更けてくると女子高生の姿のままというわけにもいかないため、ホログラムで仮装を施して当局の制服に身を包む。
やがて、ベーカリーに掲げられていた『De gustibus non est disputandum』と書かれたネオンライトの看板から明かりが落ちる。まったく、『
「
彼女の顔がいつまでも消えてくれない。だから、最低な言葉を口にしていた。殺したのは自分だ。そのことは一番私が分かっていた。だから、どうして彼女が反体制思想なんかに犯されてしまったのかを考える。
私は
なかでも
そうして徐々に打ち解けていった二人。クラスのなかで馴染めるように、明るいキャラを演じていた私の仮面を剥がしてくれたのも彼女だった。
「何かお探しかなぁ? お嬢さん……キヒッ」
「――ッ!?」
不意に、私は背後から話しかけられた。不気味で奇怪な声。気配はまったくなかった。だからこそ私は、得体の知れない邪悪なものに心臓を撫でられるような感覚に陥った。
思わずナイフを取り出して後ろを振り返る。
そこで私の目に飛び込んできたのは、黒ローブを
怖い……とは思わなかった。
ただひたすらに気味の悪い存在。
そして、直感的に目の前の奇怪な存在が何なのかを私は理解した。なぜかは分からない。理由があるのだとすれば、ベーカリー『ルセロ・デル・アルバ』付近で目撃されたという不審者情報。
「あんたが……〈明星の悪魔使い〉?」
「せいか~い……キヒッ……キヒヒヒ……」
なんだコイツは? こんなのが、レジスタンスを率いているという
「それでぇ? 何やってるのー? 暇なら、遊ぼ? ……キシッ」
「……キモ」
「キェハハハハッ!! そっか、そっか!! そうだよね!!
「――ッ!!」
挑発。
そんなことは分かっていた。
けれども、私は刃を振るわずにはいられなかった。
「キシッ……ケヒャヒャヒャヒャ!! 効きませーん!! キャハハハハ!!」
私の攻撃は、ただ空を切るばかりだった。そこで、〈明星の悪魔使い〉の能力が空間を司るものだったことを思い出す。攻撃は当たっているはずなのに、斬った場所に手ごたえは全くない。空間を自在に操り、攻撃をヒラリヒラリと
それから数度、
「ま、待てッ!!」
「キヒッ……」
チラリと私の方を振り向く
響くのは私と奴の足音だけ。
タッタッタッターと走っては、チラッと向いて私を確認し「キヒッ」。また、タッタッタッターと走って、止まって「キヒッ」。タッタッタッター、「キヒ」……。
ただ、どこまでも高まる心音。
そして、闇を抜けた。
「ハァ……ハァ……ここ、は……?」
そこは穏やかな橙の灯りに包まれていた。寝静まった暗い夜の街。時代錯誤のナトリウムランプが静寂を照らしている。
おかしな場所に誘導されたものだと思った。この場所には、小さい頃から何度も来たことがある。
そこは、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます