第3話
放課後。
部活を終えた
「お疲れ。
「先輩こそ。――どうしたの? 何かあった?」
「会いたくなってさ。駄目?」
夕日に染まった教室。スカートを揺らして、
ふと、
「神の能力を分け与えられた天使、か」
「……?」
「いや、何でもないよ」
そう言って、
「えへへ……。先輩、サイテー。どさくさでどこ触ろうとしてんの?」
「いいかなって。駄目だった?」
「駄目だよ。だって、先輩って彼女いるよね? こんなことしていーの?」
「いいんだよ。そろそろ別れようと思ってたし」
「あっ、そうなんだ」
この場には誰もいない。誰も見ていない。見ているとすれば、〈ヴィアヴァスタ〉くらいなものだろう。けれど、今日のことが、〈ヴィアヴァスタ〉にバラされたとしても
「そういや、
「どうだろー?」
「積極的なのは嫌い?」
「ほんと、悪い先輩。〈ヴィアヴァスタ〉にヤバい奴だって認定されたらどうすんの?」
それこそ〈悪魔使い〉になっても知らないよー。そんなふうに冗談めかして言う
「聞いて驚くなよ。実はオレ、〈悪――」
耳元で囁くように口にしながら、最近契約したばかりの〈悪魔〉の名前を心のなかで呼ぶ
――背中に燃えるような痛みが走った。
「……ッ!?」
「私、先輩のこと割と好きにはなりかけてたんですよ? けど、〈
一瞬何をされたのか分からなかった。
たった一突き。
しかし、急所を捉えた最も的確な一撃。
「カハッ……」
「バイバイ、先輩」
けれども、実際に彼ができたのは、浮気相手の言葉を聞くことだけ。そして、
*****
「茶番が長いよ」
「見てたんだー」
「当然でしょ。いつも誰が人払いのために
「分かってないなー。ただ
「いらないよ」
もっとも社会から排除・隔離されるべき人物。かつてミシェル・フーコーは、社会の近代化と監獄の発展の間に関連性があることを示唆したが、どうやら彼の考えは彼女には当てはまらないらしい。
近代化とはなにかと問われると、それは均質化・画一化された生産様式の形成過程だ。それまで、物を作るのは職人であり、そのほとんどがオーダーメードだった世界。けれど、衣服であろうと、時計であろうと、あらゆるものは規格化されて、マニュアル化された工程で作られるようになった。いま、この教室に並ぶ机と椅子が、どれもこれも同じ形をしているように、決められた手順、決められた方法で、物は生産されるようになった。労働に従事する人物もまた、好きな時間に休憩して、好きな時間に作るわけではない。いまは就業時間、いまは休憩時間というように、彼らもまた管理されるようになった。だから、近代の工場に必要なのは、個性を持った個人ではない。決められた時間に起き、決められた時間に労働を開始する、規則正しい個人だ。それは
近代社会が求めたのは「ふつうの人」。だから「異常者」は、「ふつうの人」になるトレーニングを受けるか、さもなくば隔離された。犯罪なんて犯す「異常者」を隔離する場所――それが監獄であった。監獄とは近代の産物なのだと、フーコーはこんなふうに歴史を紐解きながら示唆したのである。
だから、
「あんた、〈ヴィアヴァスタ〉にどんな
「そんなのないよ。〈
「……」
何が神様だ。ただの情報集積と統計データの処理をおこなうAIだろう。そんなことを思いながら、〈ヴィアヴァスタ〉の提示する情報から、私は
「さーて、次のお仕事教えて〈ヴィアヴァスタ〉。今度は誰を消して欲しいの?」
『社会の脅威となる人間の情報を取得しました。分析の結果、情報管理局執行部隊に所属する
――
刹那、世界が停止したかと思った。途端に、視界が歪んでいくような感覚に襲われる。そして、夜が降って来る。まるで
「……」
「へぇ……。たしか、
けどさ。
神様が殺せって言ってるんだもん。
仕方ないよね。
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