ネットの居場所

雨夜 凪

ネットの居場所


 今、とあるチャンネルが炎上している。登録者数を水増ししている疑惑があるのだ。


 検証系アイチューバーとして活動している自分にとって、誰かが炎上してくれるのはネタになるしとてもありがたい。


 ちなみに、コメントでよく「暴露系」などと言われているが、俺はあくまで「検証系」である。


 悪い事をしているアイチューバーをみんなに教えてあげているだけであって、普通に活動している人の何かを暴露するなんてことは一切していない。


 んとまぁ、話がそれたが、まず登録者数の水増しはネット上で可能なのかを調べてみる。


 そうすると、


 「ん? これ何語だ?」

 

 よく分からない、ロシア語……?で書かれた、それらしきサイトは案外すぐ見つかった。


 俺の経験上、不正などを行うサイトは基本外国語である。


 まあ、俺は日本語しか読めないからそのせいで俺が不正を働きそうになった時もあったが……


 そのサイトを開くと、やはり全てロシア語(のようなもの)だった。


 俺はもちろんロシア語なんて読めるわけないので、翻訳機能を使おうとしたが何故か使用できないようにされている。


 少しおかしいなと思った。


 スマホでモニターの写真を撮って翻訳するという方法もあったが、あいにくスマホが近くになかったのでまあいいやと思い、なんとなくサイトを触っていた。


 色んな所をクリックしていると、「ポーン」と言う音とともに NO と OK の選択肢のあるロシア語の警告文が表示される。


 選択肢は英語なんだ、とかそういうことはさておき、さすがにこの俺でも警告文を内容も見ずにOKするのは怖い。

 

 どうにかしてこの文章を読み解こうと、今度は立ち上がってスマホを取りに行った。


 カメラを立ち上げ、パソコンの画面を写すが、画面を写しているためかうまく翻訳できない。


 どうしたもんかと、ロシア語の警告文を見つめる。


 ……何が書いてあるか全くわからん。


 しかし、俺は今、自らの身を張って検証をしている。


 変なところでアイチューバー魂を発揮し、読めない警告文を無視することを選択した。


 「カチカチッ」


 OKボタンをクリックしてしまった。


 「ま、大丈夫でしょ」


 正直なところ、押した直後は特に変化がなかったこともあり、あの警告は何らかのエラーメッセージだろう、そう思っていた。


 「やっべ、もう2時かよ」


 その日はもう夜遅かったので寝た。





 翌朝、あらかじめ編集しておいた動画を投稿しようと、アイチューブを開いた。


 「え!?」


 すると、思わずその画面を二度見してしまった。


 チャンネル登録者数が、100万人を軽く超えていたのだ。


 昨日の晩は41万人程だったのに。


 一瞬「やったー」と思ったが、一晩で60万人以上も増えるはずがない。


 最新動画のコメント欄にも「チャンネル登録者数バグってて草」などのコメントがあったので、始めはアイチューブのバグかと思った。


 しかし、管理画面でも、他のサイトでも同じ数字が表示されているので、そうでもないらしい。


 思い当たる節は……ありすぎる。


 昨日の「あのサイト」だ。


 ロシア語の、あの。


 ということは、つまり…… 


 あれ? これ結構やばくね?

 

 このまま放置していると俺のチャンネルが炎上してしまう。 


 一旦冷静になり、サイトの止め方を調べてみる。


 「チャンネル登録者数不正 サイト」で検索をかける。


 すると、例のロシア語のサイトの解説ブログが出てきた。


 なんだよ、これ見ればよかったんじゃ……


 そのブログには、サイトについてこう書いてあった。


 「このサイトはウイルスサイトです。しばらくサイトを閲覧していると警告文が出てきます。それをOKしてしまうとチャンネルのアカウントが乗っ取られ、さらにはパソコンごとハッキングされます。絶対にNOを押しましょう。」


 え? そんなの知らないじゃん……


 うわ、その絶対やっちゃいけないことをしちゃったんだ、俺。


 なんでこんなパソコンが重いのだろうと思っていたが、ハッキングされて内部でなんか動いてるからなんだ。


 どういう状況になっているかは分かったが、肝心な止め方はそのブログには載ってなかった。


 他をいくら調べても「ウイルス」という単語が入っている見出しの記事が並ぶばかりで、止め方は見つからなかった。

 

 大変なことになった。


 どうにかできないか考えていると、とあることに気が付いてしまった。


 パソコンのデータ自体はバックアップを取ってあるのでいいのだが、問題はアカウントだ。


 アカウント自体ハッキングされてしまうと、今のチャンネルが使えなくなる。


 アイチューブで生計を立てている俺にとっては、アイチューブチャンネルを失うことと失業はイコールの関係にある。


 自力で集めた41万人も水の泡だ。でも、炎上を避けるためにはまずチャンネルを消す必要がある。


 俺が検証しようとしていたアイチューバーみたいにはなりたくない。


 なによりも……炎上したくない。


 チャンネル登録者数が水の泡だとか、そんなことで悩んでいる場合ではない。


 すぐにでもチャンネルを消さなければと、再びアイチューブを開く。


 しかし、もう手遅れだった。 


 俺のチャンネル、「若葉チャンネル」が、「燃えて」いた。


 さっき見た動画のコメント欄が「チャンネル登録者数不正だよね」や「このチャンネルも炎上か?」、「やっぱりこのチャンネルはやばかった」というようなコメントで溢れかえっていた。


 しかも、そういうコメントにたくさんいいねされていることに気が付く。


 これはやばいと思い、その後、すぐにアカウントを消し、チャンネルは消滅した。





 数日後、仕事を失った俺は、実家に帰っていた。


 パソコンも新しく買いなおし、また、早く収入を得たいとチャンネルも新しく作った。


 今度はどんな動画を投稿しようか考えながら、久しぶりにアイチューブを開くと、有名な検証系アイチューバーが炎上しているチャンネルについての動画を投稿していた。


 普段は他のチャンネルの検証系の動画は見ないのだか、今回は見ることにした。


 なぜなら、見てしまったのだ。動画のサムネに「若葉チャンネル」、俺のチャンネルの文字があるのを。


 そして、その動画のタイトルは「【炎上】今炎上しているチャンネルを徹底的に調べる」だった。


 改めて、自分は炎上している、そう実感させられた。


 俺のチャンネルは例のサイトにより、登録者数の水増しがすぐに確認された。


 さすがに他チャンネルを検証しようとしてそうなった、とまでは考察されていなかった。


 まあ、そんなバカは俺ぐらいしかいない。


 故意ではなく、これは不慮の事故によるものであるが、水増しはまぎれもない事実だ。


 その動画が投稿された後、今している唯一のSNSであるツイッターに批判のリプライが殺到した。


 名前とアカウント名は変えていたにも関わらず、なぜが若葉だとバレてしまった。


 俺は慌てて「不慮の事故だ」と謝罪コメントを出したが、そんなもので炎上が収まるわけなく、火に油を注ぐこととなってしまった。そんなの言い訳だとも言われた。


 怖い。なぜバレたのか。


 謝罪コメントなんて出さずに、他人のふりをしておいた方がまだましだったのかもしれない。


 ちなみに、同じ動画で俺がはじめ調べようとしていたチャンネルも検証されていて、そのチャンネルは実力であり、努力した結果の登録者数で、つまり水増しは行われていなかったという。


 それにより、批判の的がついに俺だけになった。


 あのとき、サイトのOKボタンを押さなければ、こんなことにはならなかった。

 

 あの日から二週間たった今もなお叩かれ続け、ついにツイッターのアカウントも消した。

 

 始めは違うコンテンツをアイチューブで投稿しようとしていたが、また特定されるだけなのであきらめた。












 俺にネットの居場所は、もうない。


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