宇宙の危機を回避したのに、誰も信じてくれません

どこかのサトウ

宇宙の危機を回避したのに、誰も信じてくれません

「にゃ〜ん」

 我の名前はクロ。あの日、深夜の交差点で出会った人間に、見た目通りの名前をつけられた哀れな宇宙猫だ。

 あれから月日が流れ、あやつは結婚して子供を持った。

 それから十数年ほど経ったのだが、我は今、あやつの子供と宇宙にいる。

 時間は深夜。眠れないからと宇宙船で散歩に出かけている最中だ。

 あやつはゲームが得意だった。戦略シミュレーションゲームとやらだ。

 その才能は子供にも受け継がれていた。常勝無敗。それがあやつの娘の通り名だ。

 この宇宙は何かと物騒だ。海賊と戦闘になることだってある。

 他を寄せつけぬ圧倒的実力を持つ彼女なら、この宇宙にきっと貢献できる。

 我は早い段階で素性を明かし、協力を仰いだ。

 できることなら、あやつも連れていきたいところではあった。だが宇宙のルールによってそれは禁止されている。だが、あやつの娘なら抜け道がある。

 奴らは共働きで仕事が忙しく、我も子育てを手伝った。つまり我は、この子の育ての親でもある。

 条件さえ満たせば、あやつの娘を宇宙へと連れていくことができる。

「私が宇宙に行ったって言っても、誰も信じてくれないだろうな」

「そう言えば、あやつも言っておったな。いや、違うな。誰も信じてくれない、だったか?」

「お父さん?」

「そうだ。酒を飲んでいた。たったそれだけで相手にされぬとは、地球人は酒に厳しい」

「まぁ、飲酒運転がとても厳しいのと同じだね」

「そういえば、進路は決まったのか?」

「んー、地球で就職しても良いんだけど、どうせなら宇宙で活躍したいな」

 その答えに、我は納得した。

「宇宙警察だな?」

「宇宙軍かな」

 物騒な名前がでてきた。殺戮のオンパレード。意見を通すならクーデターも辞さないあの連中に?

 良心の呵責で、心を病むことで有名な宇宙軍に就職だと?

「私、戦略とか考えるの好きだし。ゲームは得意なんだ」

「あれは良い噂を聞かないから、ここは先達のアドバイスを信じて宇宙警察にしなさい」

「そっか。宇宙のことに関しては、クロの方が物知りだからね。そうする。はい、ちゅ〜る」

「おぉ、美味美味!」

 我は今、宇宙の危機を救った。

「そうだ、動画撮っちゃおう。ちゅ〜るのゲリラライブ配信。みんな気になってるのか、見てくれるんだよね。こんばんは、ライブ配信です。クロ、一言お願いします」

「うむ。我は今、宇宙の危機を回避した」


 その動画を見た宇宙猫は誰も信じなかった。人間のお酒と同じように、宇宙猫はちゅ〜るに厳しいらしい。


 おわり

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