女勇者の幼馴染として死ぬはずだったモブ、イかれた転生者に鍛えられた結果鬱エロゲイベントを潰して回るバグみたいな存在になってしまう
第8話 落ち着いて聞いてください。あなたの想い人は美少女と同棲しています。
第二章 喫茶メスガキと純愛の蝶
第8話 落ち着いて聞いてください。あなたの想い人は美少女と同棲しています。
*8/14に第2~7話の一部名称や文章を修正・追加しています。
詳しくは「近況ノート」を参照下さい。
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そこを支配していたのは、暗闇だった。
黒く、深く、重い。
まるで「死」そのものであるかのような、濃密な闇の魔力。
魔族であっても、生半可な戦士であればたちまちのうちに汚染され、その闇に飲み込まれるだろう。
そんな闇の中で、平然と玉座に腰掛ける存在がただ一つ。
深い闇を身に纏い、加護の権能に依らず、自らの力のみで外界からの干渉を断絶している。
姿形だけでなく、その魔力や気配といったあらゆる情報が読み取れない。
それこそが、人類の敵にして絶望の体現者、
”魔王”
その人である。
「――、『寄生』が消えた。ヌルクスが死んだか」
魔王が口を開く。
それは、ここから遠く離れた地において、ノアがヌルクスの首を跳ね飛ばしたのと同時刻であった。
「アルマン」
魔王が虚空に呼び掛ける。
「はっ! ここに」
その呼びかけに応じて即座に現れたのは、一人の魔族。
その細い肉体からは戦闘力を感じられないものの、アルマンから伝わるオーラのようなものが、彼を見る者に優れた知性を感じさせる。
彼は、魔王軍幹部が一人にして、【影詠みの加護】を持つ男。
軍師アルマン。
玉座の前に膝まずくアルマンに対して、魔王は問いかける。
「ヌルクスが死んだ。勇者はどうなった」
「勇者はいまだ健在。また、六年前に取り逃した『忠誠』を観測しました」
「――そうか。『救世』はどうだ?」
「いいえ。ヌルクスとの戦いにおいて、『救世』の権能が行使された気配はありません」
それを聞いた魔王は口を閉ざす。
闇に包まれたその表情を読み取ることは不可能だが、考えを張り巡らせているだろうということは感じ取れる。
「
魔王の言葉に、アルマンが続く。
「魔王様のおっしゃる通りかと。十年前のあの日から、燻り続けていた違和感。加護を持たないせいでその存在を明確に観測できていませんでしたが、今回ようやくその尻尾を掴みました。計画通りです」
アルマンのその言葉には、虚勢ではなく確かな自信があった。
今回発生した、ヌルクスによる勇者襲撃事件。
原作では「救世の加護」と呼ばれる加護の保有者をおびき出し、その権能を見定めるための仕掛けであったが、
今回の作戦の真の目的。
それは、
”
魔王軍にとって、
加護を持たない身でありながら、こちらの重要な作戦を的確に妨害され、尚且つ幹部をも討ってみせた。
これほど気持ちの悪い存在は他にいないだろう。
「その様子を見るに、解析は十分なようだな」
魔王は、アルマンの様子からそう判断した。
そして、再び問いかける。
「では聞こう。奴を――どう殺す」
その言葉を受けたアルマンは、伏せていた顔を上げ、魔王を包む闇をはっきりと見てこう言った、
「『進化』を向かわせます」
*
ヌルクスの襲撃があってから、早二日。
その間、俺はオリビアともノアとも直接顔を合わしていない。
オリビアは、あの現場でヌルクスの死体やら何やらを駆け付けた王国騎士団とともに処理した後、魔王軍幹部の討伐を報告しに王城へと向かった。
また、加護の所有がばれたノアも一緒に連れていかれた。
ノアは俺から離れるのを相当嫌がっていたが、らちが明かないので主の命令として強制させた。
”絶対命令権”
これも、ノアの持つ【忠誠の加護】の権能の一つであり、それによって主である俺に与えられた能力だ。
ノアの意思を無視して、俺の命令を強制的に実行させることができる。
ヌルクス戦の時は、ノアをさらに強化するために”絶対執行”と重ねて使ったが、今回はその真逆とも言えるような使い方だ。
能力を行使されたノアはというと、
「ライト。私は忠実なあなたの従者。今は言うことに従う。でも、なんでも言うことを聞いてくれる約束、忘れてないから。私が帰ったら、それはもう、とんでもない事をしてもらうから。とんでもなく、ぬちゃぬちゃの、ぐちょぐちょで、ズポズポだからっ! 絶対にっ!! ふぅ、ふぅー!」
と、意味不明な捨て台詞を残し、ガンギマったような血走った眼をしたまま騎士団にひきずられていった。
「なんでも」と言った記憶はないんだが……、まあいい、もともとご褒美としてノアに俺から提案したことだ。
それに、最悪でも仙術を使えばある程度の願いは叶えられるだろう。
ノアが頑張ったのは事実だし、今回は極力好きにさせてやるか。
俺はそう思った。
一方で、オリビアと交わした言葉は少ない。
「ライト……、言いたいこと、聞きたいことはたくさんある――だから、今度は、どこにも行かずに待ってて」
そう言った彼女の瞳からは、様々な感情が読み取れた。
昔のオリビアなら、何もかも無視して俺を問い詰めていただろうに……。
俺がこの十年で変わったように、彼女もまた変わったのだと、俺は改めて感じた。
ただ、懐かしさを感じる場面もあった。
俺とノアのやり取りを見たオリビアが、
「ぐちょぐちょに……、ず、ズポズポっ!!?!」
と、顔を赤くしてぶつぶつとつぶやいていたのだ。
その顔はまさに、昔、村で有名だったカップルが家の陰でゴソゴソと何かをしているのを目撃した時と同じだった。
当時、顔を真っ赤にしたオリビアが、
「ええっ!? そんな……ふぁ……、すごっ、そ、そんなテクがっ!?!」
と、わたわたしながらガン見していたことをよく覚えている。
結局、俺が覗こうとしても何故か阻止されたために、彼女が何を見ていたのかは今でも分からない。
何を見たのか聞いても、
「そ、そんなのっ! ナニに決まってるじゃない!! ライトのばかっ!」
と、怒られてしまった。
解せない。
「さて、君たちにも少し付き合って欲しいのだが、いいかな?」
俺が思い出に浸っていた所で声をかけてきたのは、騎士団の一人だ。
ヌルクスとの戦いを間近で見ていたであろう俺たちに事情聴取を行うのは当然のことだろう。
オリビアとノアが去った後、俺とイルゼもまた、騎士団に連れられ森で起こったことについて話をすることになった。
俺はそこで、ヌルクスを討伐したのはオリビアとノアの力だと語った。
これは、騎士団が来る前にあの場にいた三人にも口裏を合わせてもらっていたことだ。
一つ目のキーイベントは、無事乗り切ることに成功した。
俺が望む未来への、確実な一歩となったことは間違いないだろう。
しかし、防がなければならないイベントも、倒すべき敵も、まだまだ残っている。
特に、次に起きるだろうキーイベントのことを考えると、俺の力は極力隠しておく方がいい。
師匠が築き上げた「仙術」は、この世界の運命を捻じ曲げるほどの強大な力を持っている。
けれど、それは決して万能の力ではない。
師匠が言っていた、
「よいか、ライトよ。『仙術』を会得したお前は、確かに強い。しかし、わしらは選ばれた者ではない、凡人であるということを決して忘れてはならん。己の力を過信するな。仲間を頼れ。わしらが現状優位におるのは、ひとえに『仙術』が奴らにとっての未知であるからじゃ。もし、わしらの手札が奴らの予測を超えることができない時が来るとすれば、それがわしらの敗北となるじゃろう」
と。
運命は変わった。
とは言っても、その影響が全てこちらに都合よく働くとは限らない。
ここで一つ、改めて気を引き締めなおす必要があるだろう。
というか、既に気になることが起きている。
騎士団による事情聴取から解放された後、俺はまだイルゼと顔を合わせていないのだ。
そもそもイルゼは学園にすら来ていない。
寮の自室にいて、体調が悪いわけではないことは間違いのだが、不安だ。
一度部屋に行ったのだが、イルゼに「もう少しだけ待って欲しい」と言われた。
やはり、ヌルクスのこと、戦いのこと、俺の力のこと、と情報量が多すぎて少し混乱しているのだろう。
俺はイルゼを信じて、もう少しだけ待ってみることにした。
カツカツカツカツ。
廊下に響く靴の音。
俺は今、この二日間に起きた出来事を振り返りながら、学園の最上階に位置する廊下を歩んでいた。
カツカツカッ――。
音が止む。
目的地に着いた。
目の前には、両開きの少し豪華な扉。
扉のそばには、「生徒会室」と刻まれている。
そう、俺は遂に、オリビアから今日の放課後ここに来るよう呼び出されたのだ。
俺はゆっくりと扉に手をかけ、そして――動きが止まる。
「――」
自分で自分に驚く。
どうやら俺は、緊張しているようだ。
「ふっ――」
短く息を吐く。
そして、「ガチャリ」と音を立てながらその扉を開いた。
「――――」
目の前に広がるのは、これまで入ってきた教室とは全く異なる空間。
先ほど触れた扉と同様に、少し豪華で気品を感じる内装。
そして、その空気感の中でも圧倒的な存在感を放つ美しい人物が、最奥の椅子に腰かけてこちらをじっと見つめていた。
「――オリビア」
「ライト――」
互いの視線が交差する。
改めて真正面からみた彼女は、その心も身体もかつてとは比べ物にならないほどに強く成長しているのが感じられた。
幼さが抜け、少し大人びた顔立ちに、記憶以上にみがかれた美しい金色の髪。
見間違えるはずもない。
彼女こそ、あの日守ると誓った、俺の
そして、同じく俺の存在を確かめたであろうオリビアが、俺に向かって告げる。
「ねぇ……、ライト」
「……」
俺は、彼女の言葉を一つたりとも逃さないよう、静かに耳を傾ける。
「ノアとかいう頭も胸も足りてない生意気ロリ体型が、あなたと婚約していて尚且つ同棲までしているという妄言を垂れ流していたんだけど、詳しく聞かせてもらえるわよね?」
「…………………………………………………………、なんだと?」
十年ぶりに再会した俺の幼馴染。
早口で語るその瞳には、確かな殺意が宿っていた。
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