深夜の縁

九重ツクモ

第1話

 ハァハァと白い息がにじむ。

 2月の早朝。

 まだこの街に太陽の光は届かず、空が白むまであと1時間はあるだろう。


 この時間に散歩をするのが日課だ。

 ほとんど人とすれ違うことはなく、街全体が眠りについてるというのが良い。

 毎日のルーティーン。

 これをしないと一日が始まらない。

 お気に入りのルートを、1人黙々と歩いていく。



 ガシャンッ!


 静寂に包まれた街角に、不釣り合いな音が聞こえた。

 いつも散歩の折り返し地点にしているアパートからだ。

 俺は慌ててアパートに向かった。


 すると、玄関の方から人が飛び出してきた。

 このアパートの1階に住んでいる女子大生だ。


「どうしましたか!?」

「あっ! あの助けてください!! 部屋に知らない男の人が居るんです!!」


 俺は慌てて彼女の部屋へと向かう。

 玄関の扉を開けると、部屋の中はぐちゃぐちゃに荒らされていた。


「もう、居ないみたいだね」

「そうみたいですね……。あの、すみません。急にお呼び立てして……」


 彼女は気恥ずかしそうに俯いた。

 混乱していたために、見ず知らずの俺をここまで連れてきてしまったことに恥ずかしさを感じたのだろう。


「いえいえ、大変な目に遭いましたね。とりあえず警察に連絡した方がいいでしょう。それまで不安なようでしたら、一緒に居ますから」

「あ、ありがとうございます……」


 やはり心細かったのだろう。

 今にも涙が溢れ落ちそうな瞳で、彼女は安堵の表情を浮かべた。



 その後、警察がやってきた。

 最初は物取りの犯行だろうと思われたけれど、捜査の結果、盗聴器とカメラが発見され、部屋に居た男は彼女のストーカーだろうと断定された。

 ゴミを漁られたり、郵便物を盗られたりと心当たりのあった彼女は、恐怖からすぐに引越しをした。


 そしてあの日の縁で、俺たちは付き合うことになった。




 もう俺は夜中の散歩をしなくなった。

 必要がなくなったから。

 あの日のには心から感謝をしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

深夜の縁 九重ツクモ @9stack_99

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ