最終3話 ずっといっしょに

 電車で一区間、7分かかる距離を、私と健ちゃんは並んで帰る。


 東京から続いている広い幹線道路の歩道脇にはまだ雪が残っていて、そこからふきのとうがひょっこり顔を出している。それなのにもう、桜は満開だったりする。


 周囲には田んぼと畑しかなくて、ときどき住宅地にもクマが出る。家の裏を新幹線が通っているけれど、トンネルの中だから線路も車両も見えない。


 そんなごくありきたりな田舎だけど、水がきれいで、お米は日本一おいしいと有名で、大好きな人がいつもそばにいる。そんなこの街が私は大好きで、これからもずっと暮らしていきたい。


 暮れなずむ空と、頬を紅く染める澄んだ冷たい風。いつも車道寄りを歩いてくれる健ちゃんの手を、どんなに寒くてもガソリンスタンドで朝から晩まで働いて、冷たい布でクルマを拭くその手を、私はそっと包みたい。


「あの、ね? その、私じゃ、ダメかな?」


 ダメ元で、一生分の期待を込めて、訊いてみた。



 ◇◇◇



「あ? なにが?」


「その、彼女っていうのかな。健ちゃんの特別なひと」


「なに言ってんだよ。なごみ以外考えられるわけねぇだろ。今も、それに昔も!」


 やっと見つけた、俺の人生目標。それは、一生かけてなごみの笑顔を守り抜くことだ。こんな俺だから、将来は尻に敷かれるかもしれない。いや、もう既にそうだろうか。


 だけど、それでも、なごみとならきっと、なんやかんや言いながらも互いに笑い合いながら生きてゆける。


 だから俺は、そんな日々がいつまでも続くように、一生懸命になる。そう心に誓った桜舞い散る茜空の下だった。

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雪どけ間近に花は咲く おじぃ @oji113

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