第2話 なごみといっしょに
「なぁ、俺ってこのままなーんもない人生過ごすんかな」
「えぇ、どうしたの急に」
翌日。昨日とは打って変わり、澄んだ空気に映える夕焼けは、いつにも増して幻想的だった。
田んぼの真ん中を一直線に貫く
畦道の雪を踏み締めサクサクと音をたてながら並んで歩く健一と、同い年の女子、なごみ。二人は物心ついた頃からの幼なじみで、生まれてからずっとこの町で暮らしている。
栄えた街へ行くには1時間に1本の在来線(ドアの上にデジタルサイネージがある新型車両なのがこのド田舎での唯一の救い)と、同じく1時間に1本しか止まらない新幹線を乗り継いで約1時間かかる。
時間もお金もかかるので、二人の遊び場といえばほんの少しだけ栄えた隣町のショッピングセンターのみ。
ショッピングセンターにはカラオケ店やクレーンゲームとカーレースのゲームがあるゲームセンターがある。そこでは周辺に住む子供や若者が交ざり合い、同じ目線ではしゃいでいる。
「俺さ、中坊くらいまでは大人になったら東京出て一発当てんべとか思ってたけど、いざ大人になったら絶対継ぎたくないと思ってた
健一はクレーンゲームにコインを投入しながら、傍に立つなごみに言った。
「いいんじゃない? そういうのも」
「そりゃ、それも一つの生き方だとは思うぜ? けど俺ってさ、ブランデーで一晩明かす男じゃん? そんなシャレオツなジェントルマンがよお、ガソスタのジャンパー来て帽子被って吹雪の中ガクガク震えながら汚れ仕事してんのってどうなのよって思うわけ」
喋りながら操作していたら、クレーンを止める座標を見誤り、掴みかけた猫のぬいぐるみが滑り落ちた。
「ふふふっ、ビールもろくに飲めないのにね」
「うるせーよ。ブランデー
「そうだね、夢見るのは自由だもんね。でも、ガソリンスタンドの仕事だって素敵だって、私は思うよ。健ちゃんとか健ちゃんのお父さんが灯油を配達してくれるから、町の人は寒いなか灯油を買いに出かけなくてもずっと暖まっていられるんだもん。みんな感謝してると思う」
「そりゃ、町の営業を疎かにしたら生活できねぇし。配達した玄関先でありがとうって言ってくれる人は多いけど、最近は原油価格高騰でお客さんの負担が増えてるから実際は感謝どころかハラワタ煮えくり
「そうかなぁ。でも、もしそうだとしても、私は健ちゃんが灯油を届けに来てくれるとホッとするんだよ。いつも言ってる‘ありがとう’だって、ほんとうにそう思ってる。悴んで赤くなった手で重たい灯油を運んでくれるんだもん」
「そっか、うーん、そうか……。あ、くそ」
クレーンが掴みかけたテディーベアが滑り落ちた。
「残念」
「くそ、もっかい!」
このあと、むちゃくちゃクレーンゲームをした。5千円吹き飛んだ。収穫なし。
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