第5話 釣り③
タカオは感じていた。
彼女がいる。
気配を感じているのでは無い。
純粋に勘で、そこにいると分かったのだ。
誰かに理由を聞かれても明確には答えられ無いが、だが何故だかずっと側にいると分かるのだ。
目標の馬車が角を曲がって近づいて来た。
ミキオからは襲撃して騒ぎを起こすようにと指示を受けている。
殺すなとも言われた。
ただ襲って動け無くさせれば良いと。
ただし、護衛については判断は任せるとも言われた。
生かすも殺すもタカオ次第と言うわけだ。
更に、絶対に姿を見せては行けないとも言われている。
タカオはミキオから注意された事を思い出しつつ、馬車を見ながら護衛を確認した。
二人?
いや・・・他にいる気配?
タカオは隠遁の術で姿を消しながら、辺りを探った。
ふーん。
あそこか・・・。
けど・・・あれ?
タカオは状況が分かると、いきなり閃光弾を馬車に投げつけ、そして手裏剣を馭者に向かって打った。
「ウワーッ」と馭者が叫びながら、馬車から落下した。
馬車を引いていた馬が後足で立って大きくのけ反った。
別の馬で並走していた護衛が、馬車を引いていた馬を落ち着かせようと手綱を取った。
タカオはすかさず護衛の背後に音もなく飛び移ると、首に腕をかけ頸動脈を圧迫した。
護衛は声を出す事も出来ず、そのまま気絶した。
護衛が静かになったのを確認すると、タカオは今度は馬車の窓を破って発煙筒を投げ入れた。
「!!!ゲホッ、ゲホッ!」
馬車の中から男が3人ほど咳をしながら出て来た。
1人は日本刀を抜いて身構えている。
タカオは背中に背負っていた太刀を抜き、数回打ち込むと峰打ちにして倒した。
後にいた二人の男、ブーファとダモニーは慌てて逃げようとしたが、こちらもタカオは峰打ちにして気絶させた。
「出てきたらどうですか?」
「気づいていたのね。」
「そりゃ、あっという間に4人も気配が無くなればね・・・」
そう言いながら、タカオは声のした方を向いた。
そこには紅雀が日本刀を片手に立っていた。
「そこの影に他に4人ほど気配を感じたんだけどね・・・倒したのかい?」
「ええ。簡単だったわ。」
「この護衛を見ると、同じ忍びだと思うのだけど。」
「私の敵では無かったわ。」
タカオは呆れた。
見たところ、倒した護衛はまあまあ強そうだ。
普通の人なら絶対に敵わない筈だ。
なのにいとも簡単に倒してしまうとは。
「縛ったのかい?」
「いいえ。面倒なんで、網で絡みとったわ。文字通り、一網打尽。」
やれやれ・・・そう思っていたら、紅雀は予想していなかった事を言った。
「また罠よ。敵はこれだけでは無いわ。」
「なんだって・・・いや・・・言われてみれば・・・いる。それも5人ぐらい・・・更に忍びかい?」
「そうよ。あなたと同じように、この国に逃げ込んで来た人達よ。」
タカオは驚いた。
自分の事を知っている?
いや、それよりも。
「どうする?」
「一応、警察は呼んでおいたから、この人達は放って置いても見つけてくれるでしょう。それよりも、私たちは逃げるわよ。それも後をつけられ無いようにね。」
「どうやって?」
「暴れましょう。」
紅雀はニッコリした目で言うと、次の瞬間、棒手裏剣をタカオに向かって打った。
ドサッ!
タカオの後ろで音がした。
「まず、一人・・・」
紅雀が呟いた。
紅雀とタカオは来た方角とは別の方角に走った。
「別々に逃げた方が良いのでは?」
「それはダメ。一緒に同じ方向の方が後々面倒が無くていいわ。それとも私とのデートはいや?」
「い、いや・・・そんな事は・・・」
そんな言葉を交わしつつ、二人は暗い路地に入った。
お約束のように、目の前には二人の襲撃者がいた。
そして後ろからも二人。
挟み撃ちにされ、互いの距離が縮まった。
前方を塞いだ襲撃者のうちの一人が閃光弾を投げつけようとした。
その瞬間、紅雀は棒手裏剣を投げ、そして飛び上がると顔面に膝蹴りを喰らわした。
ボキッと言う音がした。
あ、歯をやられたな。
痛そう・・・けど・・・見えたのかな・・・。
じゃあ無くて!
タカオはそんな余計な事を思いつつ、後の二人を太刀で倒した。
再び前を見ると、紅雀は太腿でもう一人の敵の首を絞めていた。
羨ましいやらなんやら・・・。
だから!
そうで無くて!
全ての敵を倒し切ると、二人は路地を駆け抜け、やがて夜の闇に消えて行った。
タカオは今日も意図せずに色を確認してしまったのは言うまでも無い。
翌朝・・・。
少女は目を覚まし、前夜にあった事をぼんやりと思い出した。
取り敢えず釣りは成功したかも知れない。
後を付けられた気配も無かった。
タカオが無事帰ったのも確認した。
それよりも・・・。
たぶん見られたわよね・・・。
夜だからと思って油断してたけど・・・考えて見れば向こうも忍びで目は良いのよね・・・。
紅雀は全裸で毛布に包まりながら、顔を赤らめるのであった。
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