第4話 釣り②

ブーファはやっと「友人」から護衛を借りる事が出来、早速ダモニーに付いてもらう事になった。


「こんな連中が護衛だと言うのか?」


伯爵は不満そうにブーファへ言った。


「はい。交渉の上にやっと回してもらった者達です。」


ダモニーはジロリと「護衛」達を見た。

黒い髪に黒い目。

肌はやや焼け、背もそれ程高くない。

顔は東洋人そのもの。

それが6人程、目の前に立っていた。


「今日からこの6人のうち2人が交代で護衛に付きます。煩わしいかも知れませんが、どうか耐えてください。」

「これが、以前お主が言っていた毒だと言うのか?」

「いかにも。」


ダモニーはもう一度彼らを見たが、大きなため息を付いた。


「分かった。好きにしろ。その代わり、役に立たなかったら返品するぞ。」

「分かりました。」



王都に気まぐれのように太陽が照った。

それを楽しむために、官庁街横の公園には人々が繰り出し、午後の散歩を楽しんでいる。

親子連れなのか、子供の手を引く母親。

小型犬を抱き抱え、ヨロヨロとゆっくりと歩く老婆。

手を繋ぎながら散歩する老夫婦。

道端では真っ赤な服を着た少女が花を売っている。

すかさず恋人と肘を組んだカップルが近づき花を買っていた。

公園の歩道の端では大道芸人がピエロの格好をして、パントマイムをしていた。

そんな雑踏の中で紅雀は、横目でチラリと貴族院の議員会館を観察した。


ブーファの後から、東洋人の一団とダモニー伯爵が出て来るのが見える。


6人か・・・やはり敵も慎重ね。

でもベイトフィッシュに最適かも。


「すみません。薔薇を一本ください。」

「はい・・・」


紅雀は花を所望した男を見た。

糸目にシルクハット。

見た目は完全に東洋人。

紅雀は認識した瞬間、煙幕を張り直ぐにその場から逃げた。


あの護衛達は、ベイトフィッシュでは無くて撒き餌だったのね。

危ない危ない。

それにしては、気配を消して近づいて来るなんて。

奴も同じ忍びの系統ね・・・。


男は静かに怒りを表していた。


ちッ、逃げられたか!


煙幕が張られれて直ぐ、男は反射的に飛び退くと、草の影に隠れ様子を伺った。


獲物を逃してしまった。

やっと尻尾を掴んだと思っていたのだが・・・。

恐らく機会はある。

紅雀は、あの男達を巻き込んでこちらを誘き出すつもりだ。

こちらも利用してやるさ。


男は苦々しい思いを抱きながらその場を離れた。



再び夜の帷が降りた。

下弦をやや過ぎた月の明かりに照らされて、黒を基調に真紅に染まった振袖と黒いニーソを履いた少女が建物の上にいた。

そして、若者が暗部を移動して行くのを静かに追いかけた。


目を別の方角に向けると、2人の護衛を伴ったダモニーの馬車が暗部を行くのが見えた。


また罠を張られたわね。


紅雀はダモニー達の一行を見て直ぐに見抜いた。

罠はダモニー自身では無く、その裏にいる奴によって張られている。

一見すると、ダモニーの護衛は二人しかいないように見えるが、紅雀にはお見通しだった。

気配で他の4人が潜みながら動いている。

わざわざ、見習い程度の者を付けると言うことは、こう言う事をさせて餌にして、紅雀を捕らえる気なのだ。


もうこちらの正体は気づいているのね。

だけど、彼らの元締めはまだ姿を現したく無いと見たわ。

仕方ないわ。

今日は様子見で、タカオさんに好きに動いてもらおうかしら。

でも・・・。


紅雀に取って、今はまだタカオに派手に動かれては困る事でもあった。

あまり術をかけられると、身がこちら以上に危険になるのだ。

かと言って彼の行動を制限するような事をすれば更にややこしい事になる。


どうしたものかしら?


紅雀は状況を分析して、最適解を探した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る