第6話 派手に動く目的

「まだ恨んでいるのか?」

「ええ。あいつにはね。」

「・・・他の奴らには?」

「場合によりけりってところかしら?」

「俺もその一味だったのだぞ?」


ミキオは少女を見て言った。

彼女にとってミキオは憎き仇だった筈だ。

それが今や矛を収め、逆に互いに協力関係となっている。

少女はため息を吐くと言った。


「そちらが私を変えた癖にそれを言うの?」

「変えたのは俺では無い。俺は死を覚悟していたんだ。だが・・・・・」


ミキオはそれ以上は言わなかった。

皆、ただ義務として襲撃に参加したのだ。

不本意とも言えないし、だが自ら進んでやったとも言えない。

そうする事が普通な事だと思って襲撃に参加したのだ。

それによって強い恨みを買う事は覚悟の上だった。

少女とミキオのいた故郷ではそう言った事は当然の習慣だったのだ。

だからこそ、誰も恨み事は言わないし、逆に敵討ちにあったとしても文句は言わない。

死を覚悟していたのだし、それで死んでも恨まないつもりだった。


だが、そんな社会は突然変わってしまった。

全てがひっくり返ってしまい、今までの習慣の殆どが否定される社会となった。

価値観は大きく変わり、信じていたはずの大切な物は消えてしまった。

この為、彼らは生活出来なくなり、故郷を捨て、全てを捨て、遥か遠くの異郷の地、この王国に身を置くことにした。

今はここで技を維持しながら、王国情報部の下請けのような仕事をしている。

しかも情報部は狡猾で、忍び同士を牽制させ、時にはわざと敵対させて、忍びが力を持たせないようにコントロールしている。


そんな中でも、紅雀だけは特殊な立場にいた。

彼女はミキオからの情報をもとに独自に動き、そして派手に動くことで情報部に口出しをさせないようにしていた。


派手に動く訳は他にもあった。

それは彼女の言う「釣り」の為だ。

釣る事で本当の敵を表に出すもしくは誘き出す、それが彼女の本当の目的だ。

だが、その派手な動きは大きなリスクも伴っていた。

それは愛する人を危険に晒す事で、そこはバランスを取らなければならなかった。


「言える立場では無いが・・・」

「しッ!そろそろだわ。その話はまた今度・・・私は消えるわ。」

「ま、慎重に頼む。」


ミキオは真剣な目をして言った。


「希望だけは残したいんだ。」


少女は返事をする代わりに、ニッコリと微笑んだ。



カランカラン。


店の扉が開いて鈴が鳴った。


「ただいま戻りました〜。結構、良い食材が買えましたよ。」


タカオが買い出しから戻って来た。


「お帰りなさい。ご苦労様です。少し休んでください。」


ツバキがタカオに椅子に座るように勧め、緑茶をテーブルに置いた。


「あ、ありがとうございます。」

「こちらこそ。どれどれ。ちょっと見せて・・・」


そう言って、ツバキは買物袋から食材を取り出した。


そんなツバキの姿を見つつ、タカオは店を見回した。

まだ、開店前だったので客は一人もいない。

カウンターにはミキオが立ち、グラスや食器を拭いている。

奥の方では、従業員のローラが無言で箒を掃いていた。


相変わらず無口で不思議な人だよな。

それに引き換え、ツバキちゃんの明るい事。


「ん?何か?」

「いや・・・ツバキちゃんは明るいなと思って。」

「えへへ。それが取り柄なもんで。でも、浮気はダメですよ。」

「浮気?」

「ええ。紅雀さんに言いつけちゃいますよ。」


タカオは真っ赤になった。


いやいや、まだそんな関係では無いぞ!


ツバキはそんなタカオを微笑んで見ていた。




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