第31話「だいだらぼっち」
ロープウェイに乗った時の話だ。
五分程度の道のりの中で、他の乗客は各々外の景色を楽しんでいる。
そんな中黒里もまた同じように、眼下に広がる自然とその先の街並みを眺めていた。
ふと、遠くの方に見えた山が動いた気がした。
思わずじっくりと見てみれば、それはなんというか、「人」だった。
ありえない話だ。この距離から人が見えるはずがないのに。
おまけにそれは、少し離れた位置にある小学校の校舎と同じくらい…いや、それ以上の高さがあった。
こちらに背を向けた状態で、座っていた。ただただ何もせず座っていた。
先程動いたと思ったのはそれが起き上がったからだったようだ。
あまりにも異様であるが、あまりにも現実感のない光景だった。
…まるでおもちゃの街並みの中で、子供が座り込んで遊んでいるような。
その人のようなものが、ピクリとも動かないことも原因の一つなのだろうか。
周囲の乗客が誰一人として気が付いた様子がないのも、自分だけが白昼夢を見ているような感覚にさせるのかもしれない。
ただ、山頂に到着するまでの間、黒里はその「人」から目を逸らすことはできなかった。
__何故かは分からないが目を逸らした瞬間に、それがこちらを振り返るのではないかと思ったからだ。
頂上についた後再びそれを探してみたが、それは忽然と姿を消していた。
後日周辺の記事を調べてみても特にこれといった事件はなく、ましてや「巨人がいた」などという目撃情報が上がっているということはなかった。
けれども、あれは見間違いなどではないと、黒里はそう確信している。
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