第29話「空き家に行った話」

学校の裏手にある雑木林を抜けた先に、ポツンと一軒、空き家があるらしい。

そこでお化けを見たと。一時期、そんな噂が流行ったことがあった。

あの日、僕たちは怖いもの見たさと冒険気分で、その空き家を探しに出かけていた。



どうにも空の暗い日だった。

予報で見た降水確率とは裏腹に、いつ雨が降ってきてもおかしくないような天気だった。

生い茂る木々のせいで余計に暗い雑木林を歩いていると、しばらくして件の空き家を見つけることができた。

至って平凡な、普通の民家だ。

もっと所々朽ちかけていたり、おどろおどろしいものを想像していた僕たちは、少し拍子抜けしてしまったのを覚えている。

それくらい、言ってしまえば今も人が住んでいるような。管理の行き届いた家だった。

庭でさえも、綺麗に雑草が抜かれている。


「人、住んでるんじゃね?」


友人の一人が、そう言いながら玄関を覗きに行った。

庭で様子を伺っていると、その友人が「あ」と声をあげて急いで戻ってきた。


「こっち来てみろよ!」


そう急かされて玄関まで向かえば、


__一枚のお札が、貼られていた。


それが正確に何が書かれているのか、そもそも本物だったのかは小学生の僕には分からなかったけれど、一見してそれはお札と呼ばれるもののように見える。

普通の一軒家に現れた異質に、途端に僕たちは興奮の色を示した。

悪い妖怪が封印されてるんじゃないかとか、霊能力者のアジトなんじゃないかとか、

突拍子もない予想を出し合っていると、誰かが玄関が少しだけ開いていることに気が付いた。


「………」


その後は、誰からともなく頷いて家の中に入っていったのだけど…

今思えば、どうして誰も止めなかったのだろう。



家の中はより一層薄暗かったが、窓から入り込む光のおかげで問題なく探索することができた。むしろ薄気味悪さに拍車がかかって、僕たちはまるで漫画の主人公の気持ちになっていたのを覚えている。

家の中もまた空き家とは思えないほど綺麗な状態が保たれていて、僕たちは律儀に靴を脱いでからリビングへと向かって行った。

そこはテーブルや食器棚、テレビまでもがそのままになっていた。しかし、それらの家具はどれも新品のように新しく、使った形跡が見られなかった。

先ほどまでは「まだ誰かが住んでいるのではないか」と思っていたが、これではまるで…

__誰かが住めるように、準備してあるようだった。



そう考えたところで、階段の方から足音が聞こえてきた。


明らかに子供のものではない。いや、さらに言うなら人間のものとも少し違う、やけに軽い足音だった。

その音はどんどん二階から一階へ降りてきて__





「__顔が、覗いてきたんです」





▪️▪️▪️





「その後はあんまり覚えていません。気がついたら、家で夕飯を食べてて…」

「…友達に聞こうとも思ったんですけど、__誰と行ったのか、どうしても思い出せないんです」



「……」


かつての同級生から語られる不思議な体験談を聞きながら、黒里は珍しく、かける言葉に困っていた。







__なぜなら、彼とは同じクラスだったはずだが、そんな噂を一度も聞いた覚えがないのだ。


口に運んだコーヒーは、すっかり冷めきってしまっていた。

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