第27話「窓を開けなかったから」
結局のところ、真実は闇の中なんですけどね。
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家に持ち帰って仕事を進めていた黒里は、顔を上げた。
数秒動きを止めてその音を確認した黒里は、納得したように頷く。
なんだろう、と耳をすましてみれば、それは猫の鳴き声だったからだ。
外で、野良猫が番う相手を探しているのだろう。
謎が解けてスッキリした彼は、再び作業へと思考を戻した。
少しすると、今度は子供の声が聞こえてきた。
きゃいきゃいと数人ではしゃぎながら外の道を走っている。
黒里はキーボードを叩く手を止めないまま、元気だなぁと微笑ましくそれを聞いていた。
少しすると、今度は酔っ払いの声が聞こえてきた。
大きな笑い声と歌声が黒里の部屋にまで届く、だいぶ酔いが回っているようだ。
平日の夜中からよくやるなぁ。
男達の乱痴気騒ぎに苦笑しながら時計を確認して、黒里は動きを止めた。
そう、今は深夜。午前三時を回ったところだ。
猫の声を聞いてからまだ一時間と経っていない。そこで黒里は底知れない違和感に思わず音の聞こえていた窓を見つめた。
猫は分かる、酔っ払いも許せる。だが、さっきの子供の声は流石におかしいだろう。
どうしてその時に気が付かなかったのか、遅れて恐怖を認識した瞬間。
外が一気に「騒がしくなった」
学生達が学校に向かう会話が聞こえてくる。
主婦の井戸端会議の声が聞こえてくる。
工事現場の機械音が聞こえてくる。
犬の吠える声が聞こえてくる。
箒を掃く音が聞こえてくる。
サラリーマンが電話越しに謝る声が、
笑い声が聞こえてくる。怒鳴り声が聞こえてくる。泣き声が聞こえてくる。
大人の声が子供の声が老人の声が赤ん坊の声が男の声が女の声が人間の声が。
騒音とも言えるような「音」が、“マンションの五階に位置する部屋のすぐ横から”聞こえてくる。
それは黒里の心臓の音と比例するように段々と大きく膨れ上がってゆき____
「」
唐突にシン…と静まり返った。
後にはもう、痛いくらいの無音が、ただただ続くばかりだ。
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「それから一睡もできずに朝を迎えましたよ。鳥の声であんなにホッとしたのは、あれが初めてでした」
「…真実は分からないけど、思うんですよね、
___“あれは地獄が、通り過ぎたんじゃないのかな”って」
ある盆の前の時期の、出来事だったという。
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