第25話「後ろにはいないよ」
これは黒里が知人Aから聞いた話だ。
友人の家で数人と飲んでいた夜更けのこと、夏の真っ只中ということもあり、話題は次第に怪談へと流れていったのだという。
どうせならばそれっぽくしようとテレビを消し電気を消し、花火用に買って余っていた蝋燭に火を灯して、即席の百物語が始まった。
飛び交うのはありふれた怪談話で、それを酔いの回った男達が朧げに話すものだから、話そのものを恐ろしいと思うことは無かったが、雰囲気だけで充分に場は盛り上がっていたのだという。
何巡か話していき、そろそろお互いにネタが無くなってきた頃。
友人の一人がこう話しだした。
「こうやって怖い話聞いてたり、見てたりするとさ、急に背後に誰かいるんじゃないかって怖くなる時があるだろ?でも、振り返っても誰もいない」
「その時、誰もいなかったからって安心してないか?違うんだよ、その時幽霊は後ろじゃなくて上にいるんだ、__ほら」
友人が人差し指を天井へ向ける、それを追うようにAを含む他のメンバーは恐る恐る顔を上げて…。
……何もいなかった。
ふとそこで、皆の視線を天井へ誘導した友人が堪えきれなくなったように吹き出し始めた。
「……くくく…ははは!なわけねぇじゃん!そもそも幽霊なんて信じてんのかよ!」
その声に場の緊張感が一気に緩んでいく。
知らず知らずに強ばっていた肩の力を抜いたA達は、恥ずかしさを隠すように友人へ野次を飛ばした。
「なんだよお前からかったのかよ…!」「ふざけんなよぉ」「別に怖がってねーし」「何がほらだよまったく」「あーもうやめだやめ!終わりにしようぜ!」「上じゃなくて、下の時もあるよ!」
最後の声は、話をした友人の足元から聞こえていた。
▪️▪️▪️
結局その時は全員で部屋を飛び出して、朝になるまで近くの公園で震えていたのだという。
朝になってから部屋に戻るとそこはいつもと変わらぬ様子で、ただ一点火の消えた蝋燭だけが、部屋の中心にぽつんと置いてあった。
「__別にそれから何かあったわけじゃないんだけどさ、でも、あれ以来後ろに何か気配を感じても、振り返れなくなっちまったんだよな」
「だって振り返ったら…上も下も前も確認しなきゃいけなくなるだろ?」
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