第24話「じゃのめ」


雨の日のことだ。

日が傾き始めさらに薄暗くなった空の下、家路に着くのであろう人々が足早に行きかっている。

駅へ向かっていた黒里は、ふと前方に気がついて、物珍しそうに自身の傘を傾けた。


色とりどり様々な傘の花の群れに、一つだけ蛇の目傘があった。


駅前の街中、ごった返す人ごみの中に少しだけ異質な古めかしい傘は、黒里の進行方向の丁度まっすぐ先を歩いている。

彼はなんの気なしに、少し先を行く蛇の目傘を眺めていた。


だから、黒里は気が付いてしまった。

その蛇目が、動いているということに。


傘の模様だと思っていたそれは、まるで生き物のように忙しなく目玉を動かしている。

しかし次の瞬間、不意に目玉は動きを止めると。


__目玉がギョロリとこちらを向いた。


「___っ」


黒里は咄嗟に、傘を盾にして視線を遮っていた。

傘を握る手に汗が滲むのを感じる。

『気付かれてしまったのだろうか』

しかし、再び顔を上げることはできない。

『その目がじっと、こちらを凝視している』そんな気がしたからだ。




黒里は結局駅に辿り着くまでの間、先ほどよりも近づいた視線を無視し続けることしかできなかった。




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