第19話「笑いながら死ぬ家」
その村にはかつて、奇妙な祭りがあったらしい。
声をひそめながら村唯一の旅館の女将は、夕食後僕達に「祭り」について話してくれた。
それはいわゆる、人身御供と呼ばれる類のものであった。
十数年に一度、その祭りを取り仕切る家の者の中から生贄が選ばれる。
そして生贄は山の頂上にある祭場にて、生きたまま焼き殺されるのだ。
よくある人身供儀の一つのように思えるが、この村で行われる祭りには一つ奇妙な点があった。
祭りの最中、決して笑顔絶やしてはならないのだ。
祭事を取り仕切る生贄の家の者はもちろん、見物人や、生贄自身まで。
生贄に至っては、笑った人間の顔が描かれた布を、何重にも被せられていた。
もちろん途中で布も焼け落ちるだろうが、そこまで火が回ってしまえば、もはや叫んでいるのか笑っているのか区別などつかなかったのだという。
こうして炎と共に生贄を山に捧げた村の人間は、その後しばらく平和に暮らせるそうだ。
戦後も密かに続いていたというこの祭りだが、しかしある時からなくなってしまった。
「祭りをやっていた家の人間が、みんな死んでしまったそうですよ」
ある朝近隣の住民が訪ねると、全員が家のあちこちで死んでいたのだ。
皆一応に、歯を剥き出した満面の笑みを貼り付けた状態で。
「だから今ではその家のことを、『笑いながら死ぬ家』って行って誰も近寄らないようにしているんです」
そう話を締めくくった女将の笑顔が、この時ばかりは薄気味悪くて仕方なかった。
___
明日取材しようとしてた場所について、想像よりも数段重い話を聞いてしまった黒里と
同僚の二人は、沈黙のまま酒をあおっていた。
こいつの持ってくる話は毎回こんな感じだな。と一人ごちていた黒里は、横目で同僚を見てふと動きを止める。
同僚もまたこちらを見ていた。
「「お前、何笑ってるんだよ」」
___こっちは笑えるようなテンションじゃないってのに。
そう続けようとした言葉を飲み込み顔を見合わせた二人は、次の日朝一番にその村から逃げ出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます