第16話「遺影にはまだ早い」

変な夢を見たのだと、知人は言った。


古い、写真館のような場所にいるのだという。

椅子に座り目の前にカメラがあり、今から撮影が始まろうというところ。

カメラの横には、これまた古めかしい服装の男が一人。

顎に手を当ててこちらをしげしげと見ている。

頭から爪先まで舐め回すようにした後、ようやく男は満足したように頷いた。

『まだ早い』

それを音として拾うことはできなかったが、男の口がそう動いているのを確かに見た。


「それで、目が覚めたんだ」


「その男の後ろの壁に、遺影みたいな写真がずらっと並んでてさ、ひいじいちゃんとか叔母さんとか俺のご先祖さん達が並んでんの。でも、怖くはなくてさぁ」

「今思えば、助けてくれたんかな」


交通事故に遭い、昨日まで生死の境を彷徨っていた知人は、ベットに体を横たえたままそう

言って笑っていた。



◾︎◾︎◾︎


そんなことがあったのが数年前。

黒里は今、その知人の葬式に来ている。


あれから顔を合わせることができていなかったが、まさかこんな形で再会することになろうとは。

斎場の隅に座って始まるのを待ちながら、黒里は「彼からの最後の連絡」を思い返していた。

三日前、朝方に突然連絡があった。

スマホの向こうの知人はひどく焦燥した様子だったが、それを宥めつつ聞いた内容はこうだ。

「またあの夢を見た」「写真を撮られてしまった」

どうしよう。と知人は何度も繰り返していた。


「俺、あの時はご先祖さんが助けてくれたんだと思ってたんだけどさ、もしかして……」


___


遺影に写っている知人は、記憶と寸分違わぬ笑顔で笑っている。

写真嫌いと聞いていたが、写真写りは悪くないようだ。

葬儀はまだ始まらない。

後ろで立ち話をしている声が聞こえた。







あの遺影は、知人の部屋で見つかった。撮った覚えのないものらしい。

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