第14話「手長足長」

【手長足長】

その特徴は「手足が異常に長い巨人」で各地の伝説は共通しているが、手足の長い一人の巨人、または夫の足(脚)が異常に長く妻の手(腕)が異様に長い夫婦、または兄弟の巨人とも言われ、各地で細部は異なることもある。手の長いほうが「手長」足が長いほうが「足長」として表現される。

(Wikipedia参照)



___そのミイラがあるという噂を聞きつけて、黒里は同僚の黛隅吾吉と共に、ある山奥の村へと訪れていた。

なんでもその村ではかつて手長足長に飢饉を救われたという逸話があり、そのミイラが今でも村の神社の御神体として祀られているのだという。


七年に一度の御開帳の日に合わせてやってきた二人は、今まさに手長足長との対面を果たしていた。


◾︎◾︎◾︎


「…まあでも、そんな気はしてたよねぇ…」


目の前には恭しく祀られた二体のミイラがあり、片方は腕が、片方は脚が、異様に長いのがここからでも見てとれる。

___よく絵で描かれる、手長足長の姿そのものであった。

不気味なその風体は充分すぎるほどの威圧を見る者にあたえるが…こういったものに黒里達は見覚えがあった。


江戸の頃に日本ではミイラ作りが流行し、見世物小屋などで展示されることがあった。

そして、今でも現存する人魚や河童の手だとされる魚や猿の干物を、以前にも何度か目にしたことがあったのだ。

無論、中には「実物」も存在する。しかし、今回については残念ながらそうでなかったらしい。

異様に長く伸びた手と足。…けれどもそれは、素人目に見ても何かと何かとつなぎ合わせて作ったものだというのが明白だった。


「しかし、手長足長のミイラというのは…初めて見ましたな」


これを拝むことができただけでも、充分な収穫だと拙者は思いますぞ。

興味津々に眼鏡を持ち上げた同僚に、黒里もまた御身体を見つめたまま頷く。

確かに手長足長のミイラなんて、他に見ることも出来ないだろう。

所々造りの荒さはあるが、このミイラは実に良く出来ているように思えた。まるで、本物の人間のようだ。


「これはこれでいいものを見れた」

そういう結論で、今回二人の取材は幕を閉じたのだが___。




1ヶ月後、その村が火事で燃えたというニュースが流れた。



村にある建物をほぼ全て焼き尽くし、多数の死者と怪我人を出したその事故は、全国ニュースになって黒里達の会社のテレビからも流れていた。

そしてそれから一週間とたたず、火事によって無くなった村について、ある噂が掲示板で囁かれるようになる。


「あの村は昔から呪われた村だった」「以前にも、村の子供の半数が消えたという記録が残っている」「山神の怒りに触れたから火事が起こった」

「あの山には、人を喰らう化け物がいる」


次から次に更新される画面を見ながら、黒里はある一つの憶測に辿り着いたのだが…。

向かいの席の黛隅となんとも言えない顔を見合わせた彼は、首を振って今度こそこの一件に終止符を打つのだった。






今日もまた報道されたニュースでは、「神社の御神体が焼け跡から発見されていないことから、盗難目的の事件である可能性も視野に入れ___」と、真剣な面持ちでアナウンサーが喋っている。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る