第5話「踏み荒らした話」

夏休み最終日に、クラスメイト数人が神社に肝試しに行ったそうだ。

最初その話を聞いた時、何故僕を呼ばないんだと思わず言いそうになったが、その話題を振ってきた男子生徒の浮かない顔に、黒里はそれを呑み込んだ。


「それで?…………何かあったの?」


呑み込んだ代わりに吐き出したのはそんな言葉だったが、肝試しの次の日に、浮かない顔に、そして話しかけられたのはオカルトマニアな僕、黒里は大体の予想がついていた。


「それがさ、こいつ。そこで変なもん持って帰ってきたんだよ」

「持ってきてねぇよ!!!……知らないうちにポケットに入ってたんだよ…」


途中から割り込んできたもう一人のクラスメイトに、焦ったように食って掛かる男子生徒。黒里の予想はそこで確信に変わっていた。


「何を持って帰ってきちゃったの?」


石だろうか、供え物だろうか、もしくはお賽銭か?罰当たりだな。

そんなことを思いながら問いかけた黒里だったが、返ってきたのはそのどれでもなかった。


「赤ちゃんの靴下」



「………は?」

「いやだってさ、あそこめちゃくちゃぼろかったのにさ、お地蔵さんとこにあった靴下だけなんか綺麗っていうか新しくてさ、変だなって思うじゃん?でもさ!俺それさ、手に持ってみんなに見せただけなんだぜ?持ち帰ってねーんだって!勝手に入ってたんだよ…!」


言葉を失ってしまった黒里に、クラスメイトの少年は気まずさを感じたのか言い訳じみたことを早口にまくしたてる。


「…分かった、信じるよ。それで…どうなったの?」

「それなんだけど……」


見せた方が早いから。放課後に家、来てくんねえ?

普段冗談ばかり口にするクラスメイトの不安げな顔に、黒里は頷くことしかできなかった。


▪▪▪


「夜中さ、ずっとインターホンが鳴ってたんだ」


だけど、俺以外誰も聞いてねぇっていうんだよ。玄関に近い部屋のいた親も、おかしいだろ?

そんでさ、朝起きたら、


「こう…なってたと、」


放課後連れて行かれたクラスメイトの家、天気予報では夜から雨だといっていたが、この空模様ではいつ降りだしてもおかしくないように思えた。黒里はクラスメイトの言葉を聞きながら空をあおぎ、そして地面に目を落とす。

これには流石に家族も気が付き、朝は警察やらなんだで大騒ぎだったらしい。


家をぐるりと囲むように、地面には「無数の裸足の足跡」がついていた。


ぐるりぐるりと何週もしたのか、もしくは何十人もが歩いたのか。

どちらにしろ、庭を踏み荒らしたというよりは、規則的に家の中を窺っているようなその足跡は、確かに異様な光景だった。


「……実はさ、俺の家にもあったんだよね、足跡」


俺の家は、一周して終わってたんだけど。多分、肝試しに行った奴全員のとこに来てるんだと思う。

一緒に来ていたもう一人のクラスメイトが、そこで重苦しく口を開いた。

彼もこうやってついてきたのは、友達が心配というよりも、自分の家に来た足跡が気がかりだったのだろう。

二人の不安げな、すがるような視線が黒里に突き刺さった。


「とりあえず、靴下は元の場所に返すこと。それと、お供え物を持って誠心誠意謝りにいくしかないよ」


だが、黒里に出来ることなど残念ながら何もない。

せめてもの解決策を口にすれば、二人は必至の形相で頷いていた。


その後、靴下を持ち帰ったクラスメイトはもちろん、肝試しに行ったメンバーは黒里が言ったとおり全員で謝りにいったらしい。

そのかいあってかは知らないが、その後は何も奇怪なことは起こらなかったそうだ。













ただ、靴下を持ち帰ったクラスメイトの家に、この春妹が生まれるらしい。

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