キレイなブッコローと泉の精

呉田

第1話

小さな森の中、誰も知らない小さな泉があったと。


ある日、森の中。ザキさんが歩いていた。


「今朝の商談の新商品、可愛いかったな!

うちの店にも100ケースとっちゃおうかな☆」


「今回確保した新作のガラスペン、とっても綺麗!」


格闘の末に新作のガラスペンを確保してルンルンのザキさんは、足元にある大きな木の根っこに気づかなかった。

蹴躓いたザキさんは、アンティークの眼鏡と、新作のガラスペン5本を泉に落としてしまった。


ボチャン!


「まあどうしましょう!まさか泉に落とすなんて!何も見えない。まずはメガネメガネ…。どこかしら。ガラスペンなんて特に透明度が凄いから見つからないかもしれない。うう…。」


ガサゴソと辺りを探っていると、泉がコポコポと水音を立て、中から泉の精が現れた。


そして囁くような声でこう言った。



「お前が落としたのはアンティークの眼鏡ですか、それとも黄金の眼鏡ですか。」

「アンティークの、茶色い縁の眼鏡です。」


「よろしい。次に、お前が落としたのは青いガラスペンですか、それとも黄金のガラスペンですか。」

「青いグラデーションが綺麗なガラスペンです。あの、職人さんからなんとか確保してもらった貴重なものなんです。返してください!」


泉の精はそれは美しい女神のような姿だったが、眼鏡をかけていないザキさんには何が何だかよく見えていなかった。


「いいでしょう。お前は正直者ですね。褒美にすべて差し上げましょう。」


ようやく眼鏡をかけたザキさんは、黄金のガラスペンを見て驚いた。

「あの!この金色のガラスペンはどこの工房さんから入手したんですか!あの!ちょっと〜!」


私の仕事は終わったとばかりに、泉の精は微笑んでさっさと水の中に引っ込んでしまった。




あくる日、森の中。黒子がブッコローを片手に歩いていた。

ブッコローは気ままに話している。


「世界一のアップルパイがね〜97点!あれは間違いなくウマイですよ。450円だし、10個食べれます。」


黒子はうんうん頷いて聞いている。

しかし黒子は、黒子頭巾のせいで足元の小石に気づかなかった。

蹴躓いた黒子の手からはブッコローが勢いよく飛んでいき、そのまま泉に落ちてしまった。


ボチャーン!


(ああっ、しまった!ブッコローがずぶ濡れに!)


慌てる黒子の前で、泉がコポコポと水音を立て、中から泉の精が現れた。


そして囁くような声でこう言った。


「お前が落としたのはふつうのブッコローですか、それともキレイなブッコローですか。」


泉の精は右手にふつうのブッコロー、左手にキレイなブッコローを抱えていた。

キレイなブッコローは澄み切ったピュアな瞳でこちらを見つめ「黒子さん…(キラキラ)」と微笑んでいる。


(え!なに、キレイなブッコロー?意味分かんない!)


「ホホホ…お前の心は正直者ですね。褒美に両方差し上げましょう。」


(両方?いやいや!待って待って待って!)


戸惑う黒子を尻目に、泉の精は爽やかに手を振ってさっさと水の中に引っ込んでしまった。


(いやこれどうすんの…ブッコローが増えちゃったよ!)


黒子はふつうのブッコローとキレイなブッコローを抱えてしばらく見つめ合ったあと、とりあえず郁さんにありのまま今起こったことを話すぜ!と腹を括り、一旦帰社することにしたのだった。




またあくる日、森の中。マニタが入荷したばかりのインク瓶を携えて歩いていた。

「今日はこのまま在庫管理して、そのあとは皿洗いだ!頑張るぞ〜!」


体を動かすのって気持ちいい!とウキウキしていたマニタは、いい気分で屈伸した拍子に足元がふらついた。

そのまま蹴躓いたマニタは、持っていたインク瓶を泉に落としてしまった。


ボチャーーン!


「なんてこった!これから皿洗いもあって時間がないのにどうしよう。」


水の中を探そうとマニタが靴と靴下を脱いだところで、泉がコポコポと水音を立て、中から泉の精が現れた。


そして囁くような声でこう言った。



「お前が落としたのは4150円のインク瓶ですか、それとも黄金のインク瓶ですか。」

「ええーと、4150円のインク瓶です!」


「違います。お前が落としたのは3329円のインク瓶です。お前に渡すものはありません。」


「ええっ、そんな!価格を間違えただけなのに!」


泉の精はさっさと水の中に引っ込んでしまった。


「どうしよう…社長に何て言えばいいんだろう…。」



このとき泉の精は、マニタから没収したインク瓶の色が大層気に入った。

しばらくすると不思議なことに、泉の精が没収したインク瓶の容量からは考えられないほど滾滾とインクが湧き出て、泉は美しいグリーンに染まっていった。


この出来事を正直に話したマニタは、社長に懇懇と諭された。その後、仕方がないので社長が泉周辺の土地を買い取り、インクの沼カフェとしてオープンすることにした。


インクの沼カフェに行くと、運が良ければインク沼の精がガラスペンで試し書きしている姿を見ることが出来る。

そしていつでも、キレイなブッコローに会えるのだそうな。

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キレイなブッコローと泉の精 呉田 @ccr_1000

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