第2話 シンハの特技
それから三人はたまに休憩をとりながら、ほぼ一日歩いた。
するとその夜、村の入口が見えてきた。
「あ!村が見えたよ!」
「や〜っと着いたなぁ!」
「地図で見ても……うん!あれがセンド村だな!」
入口には衛兵が両側に立って、村に入ろうとする人達を検問していた。
「おお……。入口に兵士がいるな……。タート村じゃ見ない光景だ」
「ホントね~。やっぱり、外にいるモンスター達を警戒してるのかしら?」
「かもな〜」
センド村の途中、何度も野獣たちに襲われた三人。
そのどれもが、見たことのない見た目に黒い水晶を生やしていた。
「……とりあえず、オレ休みたい。村入って宿でもとろうぜ」
「さんせー。汗流したいな〜」
「え?今日の訓練しないのか?」
「……お前は元気だな、ソル。今日は勘弁してくれ」
「え〜!?ちょっとだけでもいいからやろーぜ!」
「ムリ!ヤメテぇ!」
実践の戦闘をしたんだからもういいんじゃないか?っと思うシンハ。ソルは駄々をこね続けたが、何度言われようと付き合う体力はなかった。
*****
しばらくして、センド村の入口に着いた一行。
何人か行商が並んで検問を受けており、順番待ちとなった。
「すんなりと入れないのは面倒ね〜」
「ここら一帯の行商の要として大きくなった村だからな。色んな人が来るから、チェックも厳しいんだろ」
「タート村の何倍も大きいもんな!」
「……あんまり言ってやるなよソル。村長が泣くぞ?」
そんな雑談をしていると、ついに三人の番になった。
「止まってくれ、君たちの荷物検査をさせてくれ」
「わかりました、お疲れさまですね」
「はは、ありがとう。悪いね、これも規則だからさ」
「いえいえ、わかってますよ。大変ですね〜」
「そうなんだよ~。実はね……」
門兵との会話を始めたシンハ。
その様子にソルとアリスは感心していた。
「……いつも思うけど、シンハって初対面でもすぐ仲良くなるわね」
「ああ、そうだな。昔っからあんな感じで人との距離をすぐ縮めるよな〜」
「あの能力は素直に感心するわね」
ソルとアリスは基本的に人見知りで、気に入った相手には距離を徐々に縮めるタイプ。そのため人と仲良くなるのに時間がかかる。
しかし、そんな二人がタート村でほとんどの村人と仲良くできたのは、シンハが間に入ってくれたからだった。
容姿と能力に優れる二人は遠巻きに見られるだけで、近い年齢の友達はなかなかできなかった。ソルは外から来たために余計そうなった。
しかし、シンハと仲良くなり仲介してくれて他のみんなとも顔見知りになり、仲良くなってきた。
「俺も引っ越してきたばっかの時は、シンハがずっと一緒だったから村に馴染めたんだよな〜」
「そういえば、ソルってあの頃は凄い引っ込み思案だったわね」
「は、はは……恥ずかしいなぁ。そういえば、アリスと知り合ったのもシンハからの紹介だったな」
「そ、そう…?そうだったかもね〜」
アリスは誤魔化したが、本当は鮮明に覚えていた。
あの時、ソルと初めて話して仲良くなった。
噂で聞いた美少年ということで、アリスも興味はあった。ただ、それは野次馬根性に近い感情だった。
しかし、今は――
「……」
「ん?アリス、顔赤くない?疲れたのか?」
「え!?あ、えっと……そ、そうかも!」
「アリスも疲れたのか……。やっぱ今日は大人しく休むか〜」
そんなやりとりをしていると、シンハが戻ってきた。
「おまたせ〜。……あ?アリス顔赤いな」
「疲れてるんだとさ。今日は宿で休むことにした!」
「……あ〜、そうだな。みんな疲れてるみたいだし、まずは宿探すか」
「よし!じゃ、行こうぜ!」
ソルが宿探しに歩いたあと、シンハがからかうようにアリスに話しかけた。
「……なに照れてんだよ〜アリスゥ。ソルに口説かれたか〜?」
「う、うるさい!そんなわけないでしょ!」
「話すだけで真っ赤になるなんて、アリスちゃんったら初心なのね〜」
「ニヤニヤすんな!」
バン!
「いってぇ!尻を蹴るなよ!」
「ふん!」
顔を赤くしたまま、アリスはソルを追って走った。
だいたいの事情がわかったシンハは、やれやれと苦笑しながら二人を追いかけた。尻を抑えながら。
(……想像以上に尻がいてぇ、あとで冷やそ)
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