第1話 道中のこと
タート村を旅立ったシンハ一行。
村長からの手紙を預かり、ひとまず火の国の首都『グロリス』を目指す道中――
「なあソル。タート村からグロリスまでってどのくらいかかるんだ?」
「……さあ?」
「さあって……昔グロリスからタート村に引っ越してきたんでしょ?どのくらいかかったか覚えてないの?」
「ガキの頃の話だし、もう十年近く前だから覚えてねぇよ」
タート村を発ち、しばらく歩いてから三人は重要なことを思い出した。
「ミスったな〜。村長にグロリスまてどのくらいかかるか聞いときゃよかった〜」
「まあいいんじゃない?地図はもらったんだし、次の村まで行って馬車に乗ればすぐ着くでしょ?」
「いや、それでもどれくらいの日数かかるかで、調達する食料や水の量が変わるからさ。 ……まあ、乗り合いの馬車で聞きゃいいか」
三人はタート村から一番近い『センド村』を目指していた。
センド村は、タート村近郊の村々の中間地点にあるため、行商たちの補給地点として、周辺地域で一番栄えている。
そのため、首都グロリスとの往来をしやすいように乗り合いの馬車が定期的に走っている。
この馬車に乗って、三人は首都グロリスへ行くつもりでいた。
「ならまずは馬車の停留所まで行って、情報集めてから食料調達しましょ!」
「うん、そうしようか」
「……なあ、ホントに馬車で行くのか?歩いて行かないか?」
「ダメ」「ダメよ」
「セ、センド村の次の村で馬車にのれば……」
「次の村まで歩いてどれだけかかると思ってんだよ!」
「そこは訓練と思って頑張れば……」
「ソル、寄り道や野獣との戦闘を期待してもダメだ」
「げ、バレてた……」
「オレたちは村に出た黒い獣の件を、早く首都グロリスの騎士団に報告しなくちゃならない。……タート村のためにもな」
「う……」
「旅が楽しいのは分かる。けど首都までは最短で行かなくちゃならない。
……わかるよな?」
「は、はい……」
念願の旅で浮かれていたソルは、シンハの言葉に肩を落とした。
自由な旅を許してくれた村長やそれぞれの親の信頼を裏切らないように、まずやるべきことをやる。
だからシンハも強くソルに言ったし、ソルも分かっているから素直に引き下がったようだ。
三人が話しているその時――
「!シンハ、アリス!何か来る!」
「え!?」
「こ、この気配って……!」
三人の前に、三体の獣が現れた。
小型の狼くらいの獣だが、目がなくて尻尾が二本生えており、まさにモンスターだった。
何より三人を驚かせたことは、三体とも体に
「この水晶……森に出た怪物たちと同じか!?」
「わからない!でも、気ぃ抜くなよ!」
そう言ってソルは駆け出した。
モンスターたちもソルへ飛びかかったが、ソルは瞬時に避けて、一体を斬り捨てた。
「オレも行くぞ!」
シンハも剣を抜いてソルの援護へ向かった。
モンスターの一体に向かって斬りつけると、すんなりと斬り倒せた。
(……?何か、違和感が……?)
「ソル、シンハ!離れてて!」
アリスが二人に叫ぶと、高速の火の玉が飛んできた。残りのモンスターはまるで反応出来ず、ゴウッ!っという爆音をたてて直撃し、姿形が残らずに焼失した。
「ふぅ〜。呆気なかった!」
「森で会った奴らよりも弱かったね」
「ああ!……シンハ、どうした?」
「……ん?いや……なんかこの剣に違和感が……」
剣を見ながらシンハは伝えた。
相変わらず白い刀身が美しく、不思議な力を感じるが、拾ったときと何かが違っていた。
「……そういえば、前は凄い光っていたけど、今は普通の剣みたいね」
「あ、そこか、違和感を感じたのわ」
確かに以前の輝きはなくなっていた。
村長に伝説の英雄が使っていた聖剣かもしれないと言われてから聖なる雰囲気を感じたが、今は美しさ以外は普通の剣と変わらないように感じた。
「確かに、あの輝きがあったから凄い威厳感じたけど、今は何も感じないな」
「……ま、別にいいさ。武器として問題なく使えるし」
そう言ってシンハは自作の鞘に剣を収めた。
「それにしても……その剣、シンハに似合わないわね〜」
「そうか?俺はシンハに合ってると思うけどな!」
「そうかな〜?ちょっと過ぎた剣な気が……」
「まあ確かに。聖剣かどうかわからんけど、凄い良い剣そうだよな〜。そんな凄い剣に慣れると、自分の実力を誤って認識してまずいかもな……」
「お前ら……。それよりも気にすることあるだろ?」
二人が好き放題言うことに呆れながら、モンスター達が残した黒い水晶を拾った。
「森で出たモンスターと一緒……。この辺りでは当たり前なのか?」
「……どうなんだろう?これが普通の獣なのかしら?」
「でもさ、こんな水晶を持っている獣がいるなんて、本でも見たことないよな?」
「確かに……。突然変異?新種?……分からないわ」
「考えたって仕方ないさ!とりあえずセンド村へレッツゴーだ!」
「……ソルの言う通りだな。考えても分からんし、行こっか」
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