第1章 火の国

第1章 プロローグ

―――グロリス 聖心教教会 礼拝堂


 熱心に祈りを捧げる女性がいた。

 白いローブにフードを目深に被っており、そのフードからは美しい金髪が少し見える。


 まだ大人になりかけていない、しかし少女という年齢を抜け出した女性。


 女性が祈りを捧げる前には、神々しい女性の像。

 さらにその像の前には、大きな白い水晶が置かれている。



 そんな女性に騎士の格好した何者かが近づく。

 『聖心教』という宗教団体に所属する騎士。神聖なる守護者として世間では『聖騎士』と呼ばれている。


 そんな聖騎士が、祈る女性に近づいて声をかける。


「……そろそろ火の国の王と謁見のお時間です」

「………………わかりました」


 白いローブの女性は立ち上がり、フードを外した。

 美しい金髪と、少し垂れ目の美少女だった。どこか神々しい雰囲気を醸し出しながら、優しさや癒しも感じる不思議な女性。

 いつも祈りに集中するためにフード被る習慣があるようだ。


 フードを外した女性は、長い金髪を整えて聖騎士に向き合った。


「ごめんなさい、お時間もらってしまって」

「いえ、お気になさらず。…………しかし、急にお祈りしたいとのことでしたが、何かありましたか?」


 聖騎士の問いに女性は顔を曇らせて言った。


「…………最近、世界中から嫌な噂が流れてきます。そして、その裏には……」

「はい……、『奴ら』の影がチラつきますね。我ら聖騎士の間でも話題になってますよ」

「そうですか……。世界はこれから混沌とするでしょう。だから、私に何かできることはないか、神と初代聖女様に祈りと『お告げ』を拝聴しにきました」

「そうでしたか」


 初代聖女――

 伝説の英雄と共に邪神討伐をした聖心教の礎を築いた最初の聖女。

 この聖心教という宗教において、神とともに崇拝される偉大なる女性。


「……何か聞こえましたか?」

「はっきりとは……。ですが、やはり今後、世界各地で何か良からぬことが起こるようです」

「そんな……」


「ですが、希望もあります」

「希望、ですか?」


 聖騎士の問いかけに小さく頷き、真っ直ぐ前を見つめた。


「ほとんど聞こえないお告げでしたが、最後に聞こえました。

………………伝説の再来、と」

「!それは、も、もしや伝説の英雄ですか?」


 聖女は首を振る。

 否定ではないがよくわからない。そんな様子だった。


「行きましょう、リオンさん。このことを陛下とお話したほうがいいと思います。……きっと、今私にできる事は動くこと。 とにかく前へ進みます」


 聖女はまだ若いが覇気を伴うその凛々しさに頼もしさを感じる。

 

 この人はやはり世界に必要な人だ。これから多くの人を救い、導く人。ならば、自分は全力でお守りしよう。


 決意を新たに聖騎士――リオンは女性に付いていく。



「承知いたしました。お供いたします。……聖女ミラ様」

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