第3話 センド村の宿にて
センド村に無事入ったシンハ一行。
まずは休むことができるように、宿屋を探していた。
「俺、宿屋に泊まるの初めてなんだよな〜。ワクワクするぜ!」
「お泊まり会みたいで楽しみだね〜」
「あれ?グロリスからタート村に来たときにどこか泊まらなかったのか?」
「たぶん……?昔だからあんまり覚えてないけど、馬車の中で寝泊まりしてたような気がする」
「ねぇ、どんな宿に泊まる?」
「ああ、さっき門兵の人に何件かオススメ聞いてきた」
「さすがシンハ!手際良しだな!」
「どんな宿があるの?」
「え〜っと……」
シンハが門兵から聞いたオススメ宿は三件。
①食事風呂つき、大きめのベッド、料金は所持金のほぼ半分
②食事なし風呂は共用、どの部屋も小さいベッドあり、料金はリーズナブル
③食事風呂なし、ベッドなしで雑魚寝、料金は一番安い
「③以外ね」
「やっぱり、アリスはそうなるよな」
「①もないな〜。所持金半分払うのはダメだろ」
「だよな〜。その宿屋、金持ちしか使わないから肩身が狭くかるかもなって言われた」
「なら、②しかないわね!」
「俺も!」
「じゃ決定。その宿屋『フツー堂』へ行こうか」
「……変な名前だな」
*****
三人は、門兵に教えてもらった宿屋の一つ『フツー堂』に着いた。
三人とも初めての宿泊だったが、シンハが宿のスタッフに質問しながら何とか男女別で二部屋確保することができた。
そして、三人は男子部屋に集まって、休憩しながら今後の話をした。
「とりあえず明日はグロリス行の馬車を探して、その後食料や旅に必要なもの買おうか」
「うん、それがいいわね」
「あ、俺できたらこの剣を直したいな」
そう言って、ソルは自分の剣を掲げた。
かつてタート村の森で出会った謎の老人。世界の広さと未知を教えてくれた人。その老人がソルの才能を見出し、授けてくれた剣だった。
黒い大熊との激闘により、剣が欠けてしまってそのままだったようだ。
旅立つ前にタート村の鍛治師に修理の相談をしたが、特殊な鉱石を使っているのか、この村の設備では修理は出来ないと言われた。
道中の戦いは、鍛治師が旅の餞別として鍛えてくれた剣を使用している。
黒い獣には通用しないかもしれないと思ったが、森で戦った獣よりも硬さがなく、難なく斬ることができた。
「この辺りの獣は鍛治師の剣で勝てるけど、出来たらじいさんの剣で戦いたいなぁ」
「なるほどな〜。なら明日鍛治師も探すか」
「ホントか!?ありがとう、シンハ!」
「でも、時間がかかり過ぎるとマズイよね?」
「確かにな……。早くタート村の現状を報告しないといけないし……」
「うっ、……そうだよな」
「首都ならいい設備の鍛冶場があると思うし、首都まで我慢できないか?」
「……そうだな。わかった、この剣で何とかするよ」
ソルは納得して、剣を鞘にしまった。
「……それにしても、道中の黒い獣は森で戦った奴らより格段に弱かったな」
「ああ……。個体差があるのかな?」
黒い水晶がついた獣は、通常の獣の突然変異みたいなもので、みんな強くなっていると思った。しかし、道中の獣たちは森の普通の獣並みの強さだった。
「森にいた奴らが特別だったのかな〜?」
「……かもしれないな。奴らの水晶、大きかったもんな」
「水晶の大きさで強さが変わってくるのかな?」
「かもしれない……。今後は出てこない事を祈るよ」
「俺は出てきて欲しいね!面白そうだし!」
「またコイツは……、そんな楽観視できないかもしれないんだぜ?」
「ん?どういうこと?」
シンハは、先程門兵と話していた際に教えてくれた情報を二人にも伝えた。
「実はさ……あの黒い水晶のモンスター、最近よく現れだしたんだとさ」
「「!」」
「幸い多少強い程度だから、村に常駐してる兵士で退治出来てるらしいけど、商人が襲われて大怪我したって話も多くなってるらしい」
「タート村と同じく、最近現れ始めたんだ……。何か普通じゃなさそうじゃない?」
「ああ……ひょっとして、じいさんが言ってた『世界の異変』が始まったのか?」
「…………わからない。だが、前までは見たこともない異常事態だそうだ」
謎の黒い水晶を生やしたモンスター。
ただの突然変異で生まれた生物なのか。それとも、世界の異変の一端なのか――。
その結論を出すには、シンハたちは世界に対して無知だった。
「……オレたちも気をつけような」
「そうね、今後も情報収集していく必要ありね」
「へへ、腕が鳴るなぁ」
「おいおい……。でも、頼りにしてるよ、ソル」
「おう!」
その後は軽く雑談し、各自眠くなったので今日は床につくことになった。
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