幕間 ボクのヒーロー3
シンハと会って数ヶ月が経過した。
ソルはほぼ毎日シンハと遊んだ。
最初は緊張していたソルだったが、いつも自然体で、気負わずに接してくれるシンハに少しずつ心を開き始めた。
今日はシンハの提案で村長の敷地内にある図書館にきていた。
「ここがこの村の『としょかん』だ!」
「おお……。おもったより広いね」
「あんまりおどろかないな……。グロリスはもっと広いの?」
「うん、ここにあるおうちぜんぶくらい……かな?」
「なん……だと?じゃあここはしょぼいのか……」
「こりゃっ!しょぼいとか言うな!」
「あ、そんちょー!」
シンハとソルが騒いでいると、村長が現れた。
ソルは引っ越した際に、母親と一緒に挨拶をしたので一度会っていたが、急に会って緊張してしまった。
「シンハよ、この規模の村にこれ程大きい図書館はないんじゃぞ?ワシが趣味で集めた書物を、みんなにも共有して、色んな知識を得て、皆の人生……ひいてはこの村の豊かさに繋がると思って自腹で建てたんじゃ!どうじゃ?立派だと思うじゃろ?」
「うーん……はなしながいし、よくわかんないや!」
「……やっぱ子どもにはわからぬか。トホホ……」
「きょうはソルといっしょに本をよみにきた!」
「ど、どうも……」
「……ん?ああ、グロリスから引っ越してきた家族の子か!いらっしゃい。どうじゃ?村には慣れたか?」
「えっと……」
「もうそれみんながきいてくるから聞きあきた!いこうぜ、ソル!」
「え!?お、おじゃまします……」
「ん、お、おう?」
*****
「よかったのかな?そんちょーさん……」
「まいかい聞かれてだるいだろ?気にすんなって!」
ソルが困っていたのを汲んでくれたのかは分からないが、ソルとしては有難かった。
「きょうはほんをよみに来たんだから、てきとーにすきな本をよもうぜ〜」
「あ、じゃあボク、『でんせつのえいゆう』のほんみたい!」
「『でんせつのえいゆう』?ああ、あのえほんか!……すきなの?」
「うん!……むかしお父さんによんでもらってから好きなんだ」
「ふ〜ん、じゃあそれよむか!え〜とたしか、このあたり……あった、ここだよ!」
シンハに指差された先に何冊か『伝説の英雄』に関する絵本があった。
ソルは一冊を手にとって読み始めた。シンハもつられて読み始めるが、すぐに飽きて寝始めた。
(……やっぱり『でんせつのえいゆう』はかっこいいな。どんなつよいてきにもたちむかう。……そんなえいゆうに、みんな元気をもらってついていく。)
かつて父親が読み聞かせながら自分に言った。
『ソル、この英雄の生き様はすごいことだ。強い敵に勝つ実力が凄いんじゃない。強くて皆が怖がる敵にも立ち向かえる勇気が凄いんだ!』
『ゆうき……?』
『おう、そうだ!お前もこの英雄のような勇気をもて!困難に立ち向かえる勇気を!』
……きっと今の自分にその“勇気”はない。でも『伝説の英雄』の本を読んで少しでも勇気をもらえたら……。
ソルがこの絵本を読む理由は、父の死から立ち直れずに殻に籠もる弱い自分に立ち向かいたい、という意思の表れなのかもしれない……。
*****
「ふぁ〜、ねちゃった……」
「あ、おはよシンハくん」
「おは〜……。なんさつよんでんの?」
「よんさつ……かな?」
シンハが寝ていた二時間ほどでソルは四冊の英雄の絵本を読んでいた。
「たくさんよんだね〜。まんぞくした?」
「うん」
「なら、つぎは外であそぼうぜ!けんでチャンバラしよう!」
「え、いいの?またボクがかつよ?」
「きょうこそはかつ!」
「シンハくんがいいなら……」
とはいうものの、ソルはシンハとのチャンバラを楽しみにしていた。
首都グロリスにいた頃、自分と同じような騎士団員の子どもたちとチャンバラをしたことがあった。
この頃からソルは誰よりも強く、手加減しても負けなしだった。
子どもたちは子どもなりにプライドがあったようで、歯が立たないソルとのチャンバラを避けるようになり、次第にソルは誘われなくなった。
『おまえとやっても、かてなくてつまらない』
誘われなくなる前に子どもの一人に言われた言葉だった。
しかし、シンハは何度負けても悔しさを露にし、ソルの強さを褒めて再戦を望んできた。
そして、勝つためにソルにアドバイスを求めたり、自分で考えて意表を突く行動を試行錯誤してソルを驚かせ、楽しませた。
自分と対等な立場でいてくれることが、ソルには嬉しかったのだ。
*****
二人は村長の図書館を出て、いつもチャンバラしている広場に向かった。
「あっ!木刀いえにわすれちゃった!」
「え、そうなの?……じゃあきょうはやめとく?」
「おとこがいちどいったことは、まげられん!とってくるから、先にいってて!」
うぉー!っと叫びながらシンハは家に戻っていた。
元気だなぁと感心してクスッと笑いながらソルは広場に向かった。
*****
広場に着いてしばらくしてもシンハが来なかったので、ソルは準備運動として素振りを始めた。
父の死を忘れるために振っていたいつかの木刀は、シンハという相手ができたことで、どうすればシンハに追いつかれないかを考えながら素振りをするようになった。
後ろ向きから前向きな剣に変わったことをソル自身自覚していて。
(シンハくんのおかげでさみしさや悲しさはほとんどなくなった。……でも、ボクは何かおんがえしできてるかな?)
自分にできる恩返しは何かを考えながらシンハを待っていたそのとき、人の気配を感じた。
(やっときた!……あれ?でも……)
ソルが振り返ると、何人かの少年たちがニヤニヤしながら自分を見ていた。
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