幕間 ボクのヒーロー2
「だ、だれ……ですか?」
素振りをしていたソルの前に男の子が立っていた。
背丈から、自分と同じくらいであろう少年は、ソルを見て驚いた顔をしていた。
「あ、ごめん。おつかいのとちゅうでさ、ブオンブオン音がきこえてなにかと思ってのぞいちゃった!」
へへ!っと照れた笑いを浮かべて少年は答えた。
「ご、ごめんなさい!うるさかったですよね……」
「え、気にすんなよ。そんくらいで文句いうやつはこの村にいないからさ!……たぶん!」
ソルがすごい勢いで謝罪したことに驚いた少年は、すかさずフォローをした。
「さいきんこの村にひっこしてきた人、だよね?
おれはシンハっていうんだ!よろしくね!」
「ソ、ソルっていいます……。よろしく、おねがいします……。」
「こえちっちゃ!?」
「ひ!ご、ごめんなさい……」
「え、いや、おこってないから」
ソルの気弱な態度にシンハは困った。
目を合わせてくれず、ずっと困った顔をしていたのでどう話そうか悩んでいた。
それじゃ!っと言って別れることもできるが、何となく放っておけない雰囲気を感じていたシンハ。
さらによく見ると、ソルの顔に涙の跡が残っていた。
「あれ?ないていたの?なにかあった?」
「え、あ!な、なんでもないです!だいじょうぶ、です!」
ソルは涙に気づいてすぐに拭った。
泣いていたのは明らかで、それは大丈夫ではないだろう?っとシンハは思った。しかし、ソルが言いたくなさそうなので、あえて無視をした。
「そっか!もうこの村にはなれた?」
「は、はい……」
「ぜんぜんなれてないみたいだね」
「う……」
すぐに見抜かれて恥ずかしくなるソル。
首都グロリスでは、こんなにも積極的に話しかけてくる人がいなかったので、ソルは戸惑っていた。
次にどう行動してくるか分からず、ソルはずっとソワソワしていた。
「なら、いっしょにかいもの行こうぜ!」
「え、えぇ?なんで?」
「おれ、かあちゃんにおつかいたのまれてさ!村をまわるつもりだから、ついでにみんなにきみ……えっとソルだっけ?……ショーカイするよ!」
「い、いいよ……。こんどいくから……」
「ひとりでかいものより、ふたりのほうがたのしいの!いくぞ!」
「わ、ちょ、ちょっと!ひっぱらないでぇ……」
こうして、ソルは強引にシンハと買い物へ行くことになった。
*****
「おばちゃん!いつものおすすめヤサイください!」
「お、シンハじゃないか!おつかいかい?」
「そう!かあちゃんにたのまれた!はい、おかね!」
「はは、毎度!……ん?隣の子は?ここいらじゃ珍しい金髪だね」
「このあいだひっこしてきたソルってんだ!おつかいついでにみんなにアイサツしてる!」
「は、はじめ……まして……」
「……こんなかんじで、まだキンチョーしてるみたい!」
「ははは!まだ慣れてないんだね?この村は気さくな奴ばっかりだから、気楽にいきな!」
「は、はい……」
「ほら、元気だしな!あんた将来イケメンになりそうな顔してんだから、自信持ちな!」
「あれ?おばちゃん、おれは?」
「あんたは、いい三枚目になれるよ」
「?ありがとう?……ほめられたのか?」
シンハに案内され、村で店が集まる広場にきたソル。
シンハはお店の人と話しながら買い物をし、ついでにソルを紹介した。そして、どこのお店でも先程の八百屋のおばさんのようなやりとりが繰り広げられた。
それは、首都で人との関わりを断っていたソルにとっては、新鮮で不思議な感覚だった。
「よし、かいものおわり!つきあってくれて、ありがとね!」
「う、ううん。ボクも今日はありがとう……。いろんな人をしょうかいしてくれて」
「気にすんなって!……そうだ!さっきにくやでもらった『くしやき』くおうぜ!」
「え、わるいよ……。おウチでおやとたべなよ」
「いいんだよ!ソルと友だちになったキネンだ!いっしょにたべようぜ!」
「と、もだち……?」
「ほら、こっち!」
ソルはシンハに手を引かれ、座れそうな場所で串焼きを食べた。グロリスでも食べたことがあったが、その時は味が違い新鮮だった。
「うまいだろ?」
「……うん、おいしい。前たべたときとちがう味だ」
「前はどこでたべたんだ?」
「グロリスのおにくやさん」
「ぐろりす?どこだ?」
「このくにのしゅとなんだって」
「?そりゃすごい……のか?」
こんな感じでソルとシンハは時折お喋りしながら串焼きを完食した。
そして、シンハはソルを家まで送るとそのまま帰った。
「じゃ、またあしたな!」
「え!?……あしたも?」
「あれ、なんか用事あった?」
「とくにないけど……」
「ならあしたはいっしょにあそぼうな!」
「う、うん……」
「あとこれ!あまった『くしやき』!やるよ!」
「え!?いや、もらえな……」
「じゃあなぁ!!」
呆然としながらも強引に串焼きを押し付けられ、シンハは手を振りながら元気よく帰っていった。ソルは呆然としながらも見送った。
家に入ると、ドッと疲れが押し寄せた。
親以外でここまで長く過ごした人間が初めてで気疲れをしてようだった。
(でも、いやなつかれじゃなかったな。むらの人たちにあいさつできた。それに……楽しかったな)
ソルは串焼きを見つめながら微笑んでいた。
*****
「ただいま、ソル!いい子にしてた?」
「おかえり、おかあさん。い、いいこにしてたよ?」
夜、母親が帰宅して放った言葉に少し困りながら答えた。
家で留守番をしていなかったことを無意識にいい子ではない行為と思ったためだった。
「ん?な〜に、この串焼き?」
「あ……えっと……もらった」
「も、もらった?誰から?」
「えっとね……」
ソルは日中の出来事を母親に話した。怒られると思ってビクビクしていたが、母親は怒るどころか喜んだ。
「あら、お友だちができたの!よかったわね〜」
「と、ともだち……」
「違うの?」
「……よくわかんない。ボク、あんまりしゃべれなかったし、むこうはたのしくなかったかも……」
「……ソルはたのしかった?」
「……キンチョーしてよくわかんなかった。……でも、なんかうれしかった……かな?」
何がうれしかったかはソル自身も分からなかったが、シンハと過ごした時間は暖かった。
「そっか……。なら、次会えたらソルがその子を楽しくさせられたらいいね」
「うん。あしたもくるっていってたから、がんばる」
「あ、明日くるの!?なら、何かお礼を準備しなきゃ!」
「は、はずかしいからいいよ!」
「何言ってるの!串焼きももらったんだし、お礼しなきゃ失礼よ!さて、何かお菓子でも作ろうかしら?」
「も、もう〜!」
その日、ソルの家は久しぶりににぎやかな夜を過ごした。
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