第21話 村長からの依頼

 「す、すげぇ!伝説の英雄が使っていた聖剣!!それが今、目の前にあるなんてよぉ!!」

 「し、しかも聖剣って絵本では、持ち主を選ぶって書いてたよね?ってことは……」

 「シンハはやっぱり選ばれし者なんだ!伝説の英雄と同じく!!」

 「ちょ、ちょっと待てよ!」


 冗談ではない、とシンハは思った。

 たまたま森で拾った剣が伝説の聖剣で、それを使えるのは自分だけ。

 これに運命を感じるって感想を持つことはわかるが、だからと言ってこれがその聖剣である保証はない。


 (それに、選ばれるならオレよりソルが相応しいだろ!村長め、いい加減なこといいやがって……)


 「無論、別の剣の可能性は充分ある」

 「いーや、きっとこれは伝説の聖剣だ!やっぱり世界は俺たちを呼んでるぞ、シンハ!!」

 「もうほんと落ち着いて、ソル!?お前が興奮する度に疲れが増すんだよ!」


 (そうと決まれば訓練だ!って言い出しそうでな!)


 シンハは自分が伝説の聖剣に選ばれたとは微塵も思っていなかった。

 選ばれる程の器があるとは思えないし、きっと初めに見つけた者にしか使えないように魔法で制限された剣なのだろう。

 そんな都合のいい魔法があるかは知らないが、きっとそうにちがいない。


黒い水晶を斬れたのは、ソルも斬っていたことを考えると、単純に剣の切れ味がよかった可能性もある。


 「それに、絵本だと伝説の英雄は聖剣を普段は持っていなくて、必要になったらどこからともなく出現させてたはずだせ?」

 「確かにね〜。シンハの剣、刃が剥き出しのままずっとここにあるもんね」

 「……これ危ないよね?あとで鞘作らなきゃ」


 明日の予定に剣の鞘作りを組み込むシンハ。

 ちなみにこれを口実に二人の訓練も欠席しようという魂胆も持っている。


 「……いずれにせよ、その剣を持っているシンハも充分な戦力なのは確か。つまり、お前たち三人はタート村最強なのじゃ」

 「へへ……、村長公認で最強ってか?いいね〜」


 「そんなお前さんらにお願いがある」

 

 村長は懐から手紙を出してきた。

 『グロリス騎士団長 殿』と宛先が書いてあった。


「グロリスって火の国の首都ですよね?」

「うむ、火の国の中枢、王族が住まう国一番の街じゃ」

「おお〜なつかしいな〜」

「そういえば、ソルはグロリスから引っ越してきたんだっけ?」


 村長は続ける。

 

「今回の黒い怪物の件について、国に報告しておこうと思っての。それにまた奴らが現れる可能性も考えていろいろと支援を要請したいのじゃ」

「ああ、なるほど」


 黒い怪物は村民の生活を脅かす異常事態だ。

 国へ報告して対策を練ってもらう為に報告は必要だろう。


「しかし、首都への道中は知っての通り危険が伴う。本来なら村で戦闘技能をもっている狩人の誰かにとも思ったが……」

「黒い怪物たちのせいで、もともと森にいた獣たちの生息場所が変わっちまったんだ。だから狩りに人手がいるから、あまり村の外へ出したくねえ」


 村長の言葉を引き継ぐようにハリスが言った。黒い怪物を畏れて森から逃げた獣もいるようで狩りに苦戦しているという。


「そこで考えたのがお前さんらに行ってもらおうと思ったんじゃ。まだ若いが実力は申し分ないし、適任じゃろ。……どうじゃ行ってくれんか?」

「それって村から出てもいいってことだよな!?よっしゃー!!!」

「ソル、落ち着け。ただのおつかいだぞ。用事が終わったら、首都から戻って帰ってこなくちゃ――」

「いや、そのまま旅に出てもええぞ?」


 シンハがソルを宥めていると、村長が意外な一言を付け加えた。これには、シンハだけでなくアリスも驚いていた。


「い、いいんですか?」

「前にも言ったが、お前たちにはこの村は狭いと思うんじゃよ。ここで一生を終えるには余りにも惜しい。世界へ羽ばたいて、その才能を活躍させておくれよ」

「村長……」

「へへ、そうこなくちゃ!でも母さんを説得しなきゃいけないな!」


 確かに、村長の許可が下りても親は心配で駄目というかしれない。しかし、ハリスが続けた。


「お前たちの両親は旅立ちを了承した。問題ないぞ」

「「「え?」」」

「お前たちが世界へ出たいことを察してたんだろうな。諦め気味に了承してたよ」

「私のパパもですか?なんか意外だな」

「アリスの親父は確かに駄々をこねたな、ははは」

「やっぱり……」

「ブレないな、アリスパパは」


「でも、アリスが自分で決めた夢は応援したい、って最後は泣きながら承知したよ」

「パパ……」


 娘大好きだから傍にいてほしい。大好きだから夢を叶えてほしい。矛盾しているが、愛ある親心を感じ涙ぐむアリス。

 自分の両親はどうだったんだろう、とシンハは気になった。


「オレの両親も許可出したんですか?」

「ああ、シンハのとこはやっぱりお袋さんが難色を示したよ。二人の足を引っ張らないかってな」

「か、母ちゃん……。まあ自分でも思うけどさ……」

「でも、お前の親父が言ったんだよ。あいつが選んだなら応援しようってな」

「父ちゃん、意外とオレを信じてるんだなぁ」

「お袋さんも信じてるさ。でもそれ以上に心配なんだよ。他の二人の親も同じだ。俺にも子どもがいるからわかる」


 ハリスにも最近子どもができた。だからこそ、三人の親が抱いた思いを察することができた。

 

「双子の赤ちゃんですよね?この間会わせてもらったけどかわいかったなぁ」

「ああ、俺の宝物だ。子どもは親の宝、そして無限の可能性を秘めたすごい生命なんだよ。だから自分の気持ちを押し殺して子どもたちの意思を尊重して送り出す」

「今日、お前さんたちの親がはしゃいでいたのも、寂しさを紛らわすためでもあるかもしれんのぉ……」

「「「……」」」


 シンハたちは、自分たちの夢だけを考えて生きてきた。

 

 しかし、親が寂しい思いをすることに考えが至らなかった。

 特にソルは母親だけしかいないので、人一倍寂しい思いをさせることになる。そう考えると、ソルは申し訳なさを感じた。

 しかし、ソルに迷いはなかった。


 「それで、お前さんたち。依頼受けてくれるかの?」

 「もちろん、受けるぜ!!」


 母親が応援してくれるなら、応えたい。

 何よりも自分の夢……世界への情熱は止まらなかった。

 ソルは村長へ即答した。


 「二人はどうじゃ?」

 「私もいきます!」

 「二人が心配だし、オレも行きますよ」


 ソルを放って置けない、一緒に旅をする約束もしたためシンハとアリスも行くことに賛同した。


 こうして、三人は世界へ旅立つことが決定した。

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