第20話 宴
それからハリス率いる狩人たちが再度山狩りを行った。
その日は黒い怪物も水晶も見つからなかった。
念のために次の日も一日山狩りを行ったが、やはり見つからなかった。この結果を持って、森は問題ないと結論づけた。
村長は、村人たちを不安がらせたことへのお詫びと景気付けのため、夜に宴を催すことにした。
*****
——そして夜。
村の広場に村人全員が集まり、宴が始まろうとしていた。
まだ始まる前だが、皆嬉しそうにはしゃぎ、今回活躍してくれた狩人たち、そしてシンハたち三人を囲って褒め騒いでいた。
「皆の者!不安がらせてしまってすまんかったな!
……だが昨日、若き勇士の力によって森に潜んでいた怪物たちは退治された!そして今日、改めて狩人たちに確認してもらって異常は確認されなかった!よって!森はいつもと同じに戻ったと判断した!!今宵はその祝いの宴だ!!」
「「「「「おおぉ!!!!」」」」」
村長の宣言にタート村の全員が歓喜の雄叫びをあげた。不安から解放されて喜びが溢れており、宴が始まる前から酒を飲む者もいて賑わっていた。
「危険を承知で積極的に動いてくれた狩人たち……、そして!何よりも!不安の元凶を討伐したソル、アリス、そしてシンハ!!
本当にありがとう!!!お前たちが居なければ村の崩壊もありえた!!村を代表して感謝するぞ、村の英雄たち!!!」
「「「「「ありがとー!!!」」」」」
「「「「「最高だぜ、お前らー!!!」」」」」
村中からの感謝の言葉に照れる三人。
実は先程から何回も胴上げをされて、変な目立ち方をしてので恥ずかしくなり大人しくしていた。
……ちなみに、シンハは胴上げで傷が痛んで悶えていた。
「さて!!ワシの言葉はこれくらいにしておこうかのぉ!!それでは皆、杯を持ってくれ!…………では、乾杯ぃい!!!」
「「「「「「かんぱ〜い!!!!」」」」」」
こうして、宴の始まりが宣言され、皆が思い思いに騒ぎ始めた。
*****
「しかし、あのヤンチャ三人組がいつの間にか強くなったなぁ」
「ああ本当にな。もともとソルは腕っぷしだけなら大人顔負けだったけど、随分前から訓練が激しくなってたよな〜。強くなったもんだぁ」
「ハリスも感心してたよ。今回の怪物って大熊よりも凶暴で強いって話だぞ?そいつを倒すんだからなぁ」
あちこちで自分たちを褒め称える声が聞こえ、恥ずかしくなった三人は少し離れたところへ避難した。
先程までいろいろな和に入ってはお酌され、褒められ、また胴上げされを繰り返して疲弊したので、ゆっくりできる場所へ移動していたのだ。
「ったく……何度も胴上げしやがって。オレはケガ人だぞ?」
「じゃあ家でゆっくりしてなさいよ。なんで来たの?」
「オレだけ家なんて寂しいだろう!」
「キレないでよ!ケガ人っていうなら大人しくしてなぁ!」
「いってぇ!?傷口叩かないでぇ!」
「ははは!……でもやっと一息つけるな。皆はしゃぎ過ぎだぜ」
「それだけ不安だったんじゃない?実際あんな怪物が村襲ってたら一溜まりもなかったわよ」
「あとは単純に久しぶりの酒盛りにはしゃいでるんだろ」
「「それはある」」
まったりと三人が談笑をしていると、村長とハリスが近づいてきた。
「なんじゃお前たち、居ないと思ったらこんな外れでまったりしとったんか」
「お前らは主役だぜ?中心にいって盛り上げてこいよ」
「……あれだけ盛り上がれるなら必要ないでしょ」
宴会場の中心では大人たちが踊っていた。
酔っ払いたちの踊りなので滅茶苦茶だが、みんな楽しそうに笑い、手拍子している。
女性陣もいくつかの集団になって噂話や火の国の首都で流行っていることなど、笑いながらいろいろな話題に華をさかせていた。
「はははっ!確かにな!みんな自由に楽しんでやがる!」
「うちの父ちゃんも母ちゃんと踊ってるよ。普段酒なんて飲まないのにさ」
「うちのパパなんて私の自慢を言い回ってて恥ずかしかったわ……」
「あれは笑ったぜ!俺の母さんとアリスの母さんで止めてたな」
「……お前さんたちが怪物たちを退治したこと、誇りに思っているんじゃよ。大目に見てやりなさい」
「……そうですね」
自分たちの子どもの成長を心の底から喜んでくれている。
だからこそ、今日は気分が高揚してハメを外しているんだろう。親からの愛情を感じて三人は嬉しくなった。
村長とハリスは三人の前に座り、頭を下げた。
「……改めて礼を言うぞ、シンハ、ソル、アリス。今皆が笑顔でこうして楽しく騒げるのはお前たちのおかげだ。本当にありがとう」
「俺からも礼を言う。うちの狩人たちを助けてくれて、感謝するぜ」
「い、いいんすよ!もうお礼はたくさんもらったんで。頭上げてくださいよ!」
「それもそうじゃな。じゃあ、感謝はここまでしておこうかの」
「切り替え早えぇな!?」
「ほっほっほ、冗談じゃよ」
村長が意外な茶目っ気を出して思わず叫ぶシンハ。
しかし、村長が本当に感謝してくれることは分かっている。普段言わない冗談を言う程、村長も気分が高揚しているのだろう。
「お前さんらの成長は目覚ましいなぁ。そういえば、ここ一年は特に鬼気迫るように訓練をしておったな。……何か刺激になることでもあったのか?」
「……まあ、世界へ旅立ちたいって気持ちが強くなったんだよ」
森の奥で出会った老人について、三人は親を含めて誰にも話していなかった。老人の詮索をされることを面倒に感じたためだった。
そのため、三人(シンハは半ば強引に)が訓練を激しくした理由は誰にも分かっていなかった。
「世界か……。確かにお前らにはこの村は狭いかもな。特にソルとアリスは剣や魔法で名を馳せる戦士になるかもしれん程の素質がありそうだな」
「おいおいハリスさん、シンハも素質あるだろ?こいつも怪物を倒してんだぜ?俺たちが世界に名を馳せるならシンハもだろ?」
ソルはシンハをかなり高く評価をしている。
自分には無い強さを持っているシンハが評価されないことは、ソルにとっては許容できないことだった。
「シンハも二人の訓練に付き合っているから実力は高くなっているがな……。その……」
「いいよ、ハリスさん。自分の実力は自分が一番わかってるから。俺が怪物倒せたのはこの剣のおかげだ。それまでは防戦一方だったし」
「そうそう、その剣のことなんじゃがなぁ……」
村長がシンハの剣を指さしていった。
病室での三人の会話を聞いて剣のことが気になって調べたようだ。
「調べて思ったんじゃが、その剣はとある伝記に載っている伝説級の聖剣かもしれん」
「「「は?」」」
「村長?」
四人は疑問の声をだした。
「お前さんら『邪神大戦』という本を知っているか?」
「し、知ってるも何も世界的に有名な物語じゃないか!?村長家にある図書館で初めて読んでから何度も読み返した本だ!」
「よく覚えてんな〜、ソル」
「当たり前だろ!お前と仲が深まった日だったからな!
……それに、世界に興味をもったキッカケでもあるんだ!」
——『邪神大戦』
ソルがいうように、世界で最も読まれている本のことだ。
概要は、世界を破壊しようと企んでいる邪神を相手に、後に伝説と呼ばれる英雄とその仲間たちが奮闘する物語。
辺境の村であるタート村でも何冊も本が所蔵されているが、必ず小さいころに親から聞かされる程愛されている本だ。
「でも、あれって絵本だったよね?村長、伝記って……」
「この村にあるのは絵本だけじゃが、邪神大戦は、『シルフ・エヴァン』という者が執筆した伝記をもとに色々な形で出版されている」
「そ、そうなのか!?」
「この村にもある絵本の他に小説や劇の脚本もある。そして、シルフ・エヴァンが書いた伝記を解釈した本もたくさんある。ワシはその解釈本を読んだことがあってな」
「ほんとか!?この村にあるのか!?」
「ちょ、落ち着けよソル!」
大好きな本が他にもあると知り興奮するソルを落ち着かせるシンハ。
「その本に伝説の英雄が使っていた剣が挿絵つきで載っておってな。その剣、挿絵の剣にそっくりなんじゃ」
「「「!!」」」
「それにな、伝説の英雄が使っていた剣は、邪悪な力を切り払うといわれている。今回黒い水晶が何かは分からんが、もし水晶が邪悪な力を持っていたのならば、シンハがその剣で水晶を切り裂いたことはもしかすると……」
「で、伝説の英雄が使っていた聖剣だからってことか、よ?」
「「「…………」」」
三人は最早言葉を失ってしまった。
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