第19話 黒水晶の謎

 「何じゃね、その黒色の水晶は?随分と不気味なんじゃが……」

 「黒い獣たちに共通していた点として、この黒い水晶が体に生えていました」

 「こ、これが体に……生えていた?そんな動物なんて聞いたことないぞ?」

 「……ますます謎が多い生物だな。いや、文字通り『怪物』なのか」


 シンハは続けて黒い水晶に関する報告を続けた。


 「奴らこの黒い水晶が光ったとき、水晶から黒いモヤがでてきました」

 「黒いモヤ?」

 「ああ、俺も見たぜ。そのモヤが怪物の体にまとわりついと思ったら、強くなったんだ」

 「……長年生きてきてそんな宝石聞いたことないぞい。それに、身体能力が上がる黒いモヤ……何かの魔法なのかのぉ?」

 「魔法かはわからないですけど、何らかの力を持つ水晶だとオレは考えています。実際に毛皮がさらに硬くなって、攻撃も強くなってました。……何回意識が飛びかけたことか」


 シンハは戦闘中のことを思い出して身震いした。

 今思い返すと、本当によく無事だったと自分に感心した。いったいあんな怪物がなぜあの森にいたのだろうか?


 「……そういえば、あいつらって体が大きかったり色が黒かったけどさ、姿や攻撃の仕方は森にいた大熊や灰狼に似てなかった?」

 「そう言われると……そうかもな」


 アリスが言うように、襲ってきた怪物たちは特徴的な変化はあったが基本となる姿は森に住む大熊と灰狼だった。

 他の地域に住む似ている種族が、森に流れてきたのだろうか?


 「しかし、他から流れてきたにしては似すぎていたなぁ。……偶然か?」

 「大熊や狼に似た種族はいそうだけど、鳴き声も似ていたと思う。ここまで似てると森にいた個体が突然変異したって気がしない?」


 アリスとシンハが黒い怪物たちについて考え込んでいると、ソルが発言した。

 

 「あのさ、思ったんだけどあの黒い大熊や狼ってもともと森にいたいつもの大熊や灰狼だったんじゃねぇか?」

 「どういうこと?」

 「何らかの理由で大熊や灰狼に黒い水晶が生えて、凶暴化や体がデカくなったり黒くなったんじゃないかなーって」


 ソルの突然意見にシンハは考え込んだ。


 「アリスのいうように黒い水晶が生えた突然変異した個体ってことか?」

 「う〜ん……。突然変異っていうか、何かこう…………だめだ!言葉がでねぇ!」

 「……」


 ソルの言いたいことが何となくわかったシンハは、言語化しようと改めて考えた。そして、シンハが考えている様子を見守っていた全員に自分の考えを述べた。


 「ソルやアリスの意見も含めて考えると、黒い怪物たちは森に住む獣たちが黒い水晶を体内に取り込んで変異した姿じゃないですか?」

 「そうそれ!俺が言いたかったことだ!」

 「……何か根拠はあるのか?」

 「確証は無いっすけど、大きさや体の黒さと水晶を除けば本当に森の大熊と灰狼に似てたんですよ。外からの似た種族って可能性も勿論ありますけど、そう考えたほうが何となくしっくりきたので」


 シンハたちの話を聞いて村長は腕を組んで考え始めた。今後の対策を考えているのだろう。

 

 「……まあ、現段階ではわからんことが多すぎて結論は出んわな。

 じゃが、お前たちの考えも一理ある。外からの種族と変異種、黒い水晶の影響のすべての可能性を考慮して調査すべきじゃな」


 「じゃあ、この後の探索では黒い怪物だけじゃなくて黒い水晶がないかも確認したほうがいいな。早速の狩人たちに相談してくる。

 じゃあな、三人とも。安静にしてろよ」


 そう言ってハリスは病室を出て行った。

 このあと再開する山狩りに向けた準備を、狩人たちに相談するようだ。


 「ハリスさん、この黒い水晶いらないんですかね?」

 「大丈夫じゃろ。十分特徴的だからあの森にそんなのあったらすぐに目に付く。……それにその水晶は禍々しいから持っていたく無いしのう」

 「シンハは平気なの?」

 「うん。なんかこの剣を持ってから黒い水晶の勢いが収まっているようなんだ」


 黒い水晶は最初みたときより邪悪な気配は薄れ、今はただの不気味な印象の水晶になっていた。

 なんとなくだが、森で拾った剣が水晶の力を押さえ込んでいる、とシンハは感じ取っていた。


 「思えばその剣も不思議よね。森に落ちてたなんて……。やっぱ特別な剣なのかな?」

 「俺もそう思うぜ!よくおとぎ話に出てくる伝説の剣みたいでイカすじゃん!そんな剣に選ばれるなんて、シンハは特別な存在なんじゃねえか?」

 「……たまたま見つけただけだよ。そんな大したことじゃないさ」


 ——あの時聞こえた謎の声も、朦朧とした意識が生み出した幻聴だろう。

 シンハは自分の中でそう結論づけた。

 

 「そんなことねぇって!お前は選ばれし者だ!」

 「何に選ばれたんだよ……」

 「でもいい剣だよなぁ……。ちょっと素振りさせてもらっていいか?」

 「いいけど……一応お前もケガ人なんだぞ、大丈夫か?」

 「大丈夫だって!……っうおぉ!?な、何だこりゃ!?」


 ソルはシンハから剣を受け取った。

 しかし、どういう訳か剣は異様に重く、ソルでも持ち上げられない程だった。


 「どしたん、ソル?」

 「めっちゃ重いぞこの剣!?こんなんよく持ち運べるなぁ、シンハ!俺じゃあ持てないぞ?」

 「はっ?何ふざけてんだ、ソル?」

 「シンハよりソルのほうが力あるでしょ?剣が持てないなんてある?」

 「じゃあアリスも持ってみろって!!」

 「いいわよ。……って何これ!?おっっも!!」


 ソルだけでなくアリスもあまりの重さに驚愕した。


 「お前ら……。いいよ、そういう演技は〜。あまり面白くないよ?」

 「演技じゃないわよ!本当に重いの!!」

 「ちょっと貸して。……普通の剣の重さだと思うけど」

 「「何でそんな軽く持てんだ(の)!?」」


 シンハは持てない二人をよそに、ひょいっと普通に剣を持った。

 やはり、特別重さがある剣とはシンハには感じなかった。二人の反応から本当に重くて持てないようだ。


 どうやら、この剣を持てるのは、自分だけのようだった。


 「確かに、この剣に選ばれてる……のか?」

 「なんか、伝説の勇者って感じがしていいなぁ」

 「こんな平凡そうな勇者見たことも聞いたことないわよ。……いや、物語としては意外と新しいパターンなのかも?」

 「好き勝手いうんじゃないよ、お二人さん!」


 それから雑談を始めた三人をよそに村長はポツリと呟いた。


 「持ち主を選ぶ剣?それってもしかして……あの本にでてくる剣か?まさか、そんなことあるのかのぉ?」


 ——しかし、騒ぐ三人にはその言葉は聞こえなかった。

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