第8話 森の異変

 ある日、シンハはいつものように朝は母親に叩き起こされ、ソルとアリスと合流して森に向かう途中、誰かの呼ぶ声が聞こえて歩みを止めた。


「おーい三人とも、ちょっと村長の家に来てくれ」

「ハリスさん、どうかしたんですか?狩人の仕事はしなくていいの?」


 三人を呼び止めたのは、狩人たちを取りまとめるハリスだった。


「いま狩人全員が村長の家に集まってんだよ、村長に呼ばれてさ。んで、村長がお前ら三人も呼んでこいってさ。……また何かしたのか?」

「そんな心当たりなんか……。」


 森に入っては、訓練と称して森の木々や地面を剣や魔法でボコボコにしている。訓練と称して、毎日遅くまで模擬戦をして剣戟や魔法の爆発音をさせている。……以外と多くの心当たりがあった。


「……結構ありますね。」

「おいおい、シンハ?もう子供じゃないんだから問題起こすなよ?」

「まったく……いつまでたっても少年の心を持ってたい気持ちは汲んであげるけど、いつかは大人にならなきゃね」

「お前らの大暴れで村に迷惑かけてそうって心当たりだよ!」

「お前ら……。ちゃんと謝る準備しておけよ」

「「謝ることしてないし」」

「……とりあえず、言い訳はいくつか準備してるんでそん時に考えます」

「……準備がいいな。この二人の尻拭いに慣れてやがる……。シンハも大変だな」


 *****


「村長!シンハたち連れてきたぜ!」

「おぉそうかい、ごくろうさん。森に入る前で助かったわい」


 タート村の村長邸――。

 この小さな村を治める村長の家には、村人とコミュニケーションをとれるようにいろいろな施設が併設されているために敷地が広い。図書館や室内広場、そして皆が集まって話し合う集会場もある。

 今、その集会場には村長と狩人全員、そして農家や大工、商人の主だった大人が集まっていた。普段ののんびりした雰囲気とは違い緊張感が漂っており、只事ではないことが起こっていたそうだった。


「村長、オレたちに何か用がありました?こんなたくさんの大人たちに怒られることしましたか?」

「……真っ先に怒られると思うってことは、また何かやったのか?」

(……こいつは心理戦だな、自分たちから自白したほうが説教が短くなる可能性が高い。でもへたに喋って違うことだったらさらなる説教がまっている。どう切り崩すか)

「全く身に覚えがないんですけど?私たち何かしました?」

(おぉい!?アリス、何サクッといっちゃってんの!?もうちょっと考えようぜ)

「今日はお前さんたちに説教するために呼んだのではない。

 ……ちょっと問題が起こっての、お主らにも協力してもらいたいことがある。まぁ座りなさい」

「あ、説教じゃないんすね」

「あんたは考えすぎよ、もうちょっと気楽にいきなさい」

「そうだそうだー」

「お前らがもうちょっと問題行動控えてくれるとオレも気楽に動けるんですけどねー!」


 シンハたちを含む全員が座ったのを確認して、村長は話始めた。


「まずはすまんな、みんな。朝の作業で忙しい中集まってもらって、どうしても共有しておきたいことがあってな」

「何か厄介ごとがありましたかな、村長?いつもなら回覧板で済ませているはずなのに」


 村の商売人たちをまとめる商人が話したように、いつもは連絡事項を村中に伝えるときは回覧板を使っている。

 集会場に集まってわざわざ共有することは、定期的な会議や早急な対応が必要な案件のときだけだった。

 会議はつい先日行っていたので、今回集まった目的は――。


「もしかしたら、急を要することかもしれんから集まってもらった。特に森に入る者たちにはすぐに伝えなきゃいかんと思ってな」

「あ、だから俺たちも呼ばれたのか」

「そういうことだ」

「俺以外の狩人を全員を呼んだのもそう言う理由だ」

「オラたちへの連絡はいつもハリスの旦那を通じてだもんな」


 いつもは狩人たちへの連絡事項は、狩人を束ねているハリスが行っていた。それが今回は直接全員に伝えるために集められた。

 森に関する緊急事態だろうか。


「ああ、オレも報告を受けたことだが村長とも相談して狩人全員には早く伝える必要があると思って集まってもらった。あとはよくこっそり森の奥まで入るこの悪ガキ三人も」

「ハリスさん!最近は堂々と入っているぞ!!」

「こら、そこいばんなよソル!オレがうまく言い訳して入れるようになったんだぞ!」

「そこ、私語はつつしめー」


 オホン、とハリスが咳払いして改めて話し始めた。


「今日の朝当番の狩人からある報告受けてな。……悪いが俺に報告したようにもう一回教えてくれ」


 そういわれて若い狩人二人が話し始めた。


「今日、ぼくたちふたりが朝の見回り当番だったんです。村のまわりはいつも通りだったんですけど、森の入り口はいってすぐのところで大熊に出逢っちまったんです」

「入口で大熊にあっただぁ!?あいつらは森の奥の豊富な自然を住処にしてるんだぞ!お前らも知ってんだろ?食料も豊富だし、まず入口までは来ないから、入り口までは誰でも入れる許可が出てんだぞ!!」

「ぼ、ぼくたちも勿論しってますよ!だから、森の奥に帰そうとして大熊を誘導したんすよ!!そ、そしたら……」

 

 若い狩人は、口籠ってしまった。そのときに見た光景を思い出したのか顔が青ざめていた。周りの狩人にせっつかれて気を取り直して話を続けた。


「み、見たこともない真っ黒な狼みたいな獣が、お、大熊や灰狼を喰ってたんです!」

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