第7話 あれから1年
謎の老人と出会ってから1年が経過した。あれから三人の生活に少し変化があった。
いつものように森の奥に入り、獣を狩っての戦闘訓練は続いている。
変わった点は、森での戦闘は完全にソル一人で戦うようになった。危なくなったらアリスとシンハもサポートするが、ほとんどソルが一人で戦った。
戦闘経験を多く積んだことでソルはさらに強くなった。
ソルが戦っている間、アリスは村長宅にあった数少ない魔法書を読んで勉強していた。内容はすべて初歩的な内容らしい。
ソルとシンハも読んでみたが、シンハは一通り読んでも理解出来ず、ソルに至っては文字を読むことを嫌ってすぐに本を放り投げて逃げ出した。
しかし、アリスは本の内容をよく理解して、驚くべきことに読み始めて二日で初歩的な魔法を使えるようになった。
まだまだ発動に不慣れな様子だが、老人が言っていた才能の片鱗は見せ始めていた。
一方シンハはというと、森での戦闘をしなくなった。
ソルが戦っている間、勉強中のアリスに獣が近づいてこないように警戒し、ソルの倒した獣の皮剥が主な作業になった。しかし、狩りが少なくなった代わりに森から帰ったあとのソルとの模擬戦が多くなった。
……この模擬戦がかなりハードなもので、シンハは狩りより模擬戦のほうが疲れるから嫌がっている。
「ッッッはあああぁぁぁぁ!!!」
「ギュグアァア……!!!」
今日も森の奥まで入り、獣を狩っていた。たった今ソルが大熊を一人、無傷で倒していた。かつて少し苦戦した大熊も、もはやソルの相手ではなくなっていた。
「すっご、一撃かよ……どこまで強くなるんだ、あいつ?」
「もうこの森でソルに敵うやつはいないわね」
「……で、アリスの魔法はどんな感じ?」
「そうそう、見てよこれ!――ファイア!」
ボッ ボッ
「お、両手に出てる!」
「そ!同時に出すことができるようになったの!さらに……っってりゃ!!」
ブン!!
「危な!!」
…………ボォン!!!
「おい!急に魔法を投げんなよ!ビックリすんだろ!!しかも今当たりそうだったし!」
「今の見た!?あの大きな木が破裂したわ!!前は穴を開ける程度だったけど、すごく成長したよね、わたし!」
「そうだね!すごいと思うよ!!だからもう片方の火を消して!?火が近くて危ないから!!!」
「あ、ごめん」
(っていうか、少し前まで小さい火の玉程度だったのに、今はアリスの手を覆えるくらいの大きさになってるじゃん!
あんなとんでもない威力を出せるってことは、アリスも大熊倒せるじゃないか?)
とんでもない実力を身につけ始めている二人を見て、シンハはさすがだな、と思いつつも驚愕していた。
かつては森の奥へ入るときはバレないようにこっそりだったが、最近では村の中でも訓練を行っているためか、ソルとアリス二人の強さが村中で話題になっていた。
それは村長の耳にも入っており、まだ若いため正式には認めていないが森の奥に行くことを黙認している。
おかげで今は堂々と行っている。
……ちなみに以前こっそり森の奥に入っていたことがバレた時に、シンハが『今後は狩った獣の肉や毛皮を提供する』ので許して欲しいと村長と狩人たちに交渉し厳重注意に留まった。
それらは、今では村の貴重な食料と交易品になっている。
「よし、満足したし帰るか!」
「オッケー。戻ったら魔力操作の訓練しよっと。シンハ、付き合いな」
「おいおい、村戻ったらシンハは俺との模擬戦やるんだよ」
「えぇ?昨日もやってたじゃん!今日は私の番でしょ?」
「いや、オレの都合も聞いてよ……」
ソルとアリスは強くなるために訓練を積極的に取り組んでいるが、シンハ自身はある程度の自衛ができる実力があればいいと考えているので、訓練に積極的ではない。
しかし、ソルもアリスも訓練相手として無理やりシンハを巻き込んでいるため、結局ほぼ毎日訓練をしている。
おかげで、二人に比べれば微々たるものだが、シンハも強くなっていた。
「シンハも強くなってきたし、もっと本気が出せるな!」
「頼むから止めてくれ!今でさえ訓練後の筋肉痛やらアザがつらいから!」
「じゃあ、今日は私の魔法訓練ね!」
「アリスの場合は、火傷がやばいんだよ!ソルの模擬戦より命の危険があるんだよ!」
「「大げさだな〜、ははは!」」
「自覚ないことが怖いわ!いっそ2人で模擬戦やれよ!」
「女のコに剣なんか振れるかよ!」
「ま、万が一ソルをケガさせるのはチョット……」
「オレならいいのかよ!?」
老人との出会いに刺激を受け、かなりハードな毎日を送るようになったが、1年経っても変わらず仲良しな三人組だった。
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