第4話 旅の終着点

「……それでその魔術師は『もうめんどくさい!』て怒ってしまってのぉ、あたり一体に大きな雷を落としたんじゃよ。……それも何個も何個も」

「えぇ!?広い範囲の雷魔法ってかなり高度な魔法でしょ?そんなすごい魔術師が実際にいるのね!」

「いや、っていうかそんな魔法危なくないか!?じいさんは無事だったのか?」

「うむ、何とかな。後で仲間達は文句をいってが、その魔術師は聞き流しておった。まぁワシは結果的に無事魔物討伐もできたし文句はなかったのぉ」

「へぇ〜、じいさん肝座ってんな」


(何だよこれ……。結局アリスも雑談に混じってんじゃん……)


 あれからシンハとアリスも姿を表して会話に参加した。最初はアリスが老人の正体を聞こうと話を遮ったが、結局老人の経験談に興味を持ってソルと一緒に老人の話に聞き入ってしまった。


 シンハも二人の気持ちはわかった。

 老人の話は、小さな村とこの森という小さな世界しか知らない自分たちにとっては刺激的な話だった。嘘か真か判断できないが、他にも巨大モンスターの討伐、大昔の遺跡発見と貴重なアイテムの入手など好奇心がうずく冒険譚ばかりだった。


(でも、このじいさん何でこんな辺境の森にいるんだ?今までの話が本当ならかなり有名な冒険者の可能性がある。

 ならこの森に来た理由はすごいお宝があるとかか?そうなると、目的は宝探しか?……もしそうなら森を荒らされるかもしれないな。村長に報告したほうがいいかな?)


「黒髪の坊ちゃん、安心してくれ。別に森を荒らして宝探しする気はないよ」

「えっ?お前そんなこと考えてたのか?そいつはじいさんに失礼だぞ!」

「そうだぁ〜。無礼者〜」

「なんでズバリわかるんだよ!?っていうかお前らはうるせぇ!!」

(ソルもアリスも完全にじいさんの味方になってんじゃん!目的忘れんなよ!)


 完全に老人に心を許した二人は役に立たないと判断して自分一人で老人の正体に迫ることにしたシンハ。


「宝探しじゃなかったらどうしてこの森にいるんだ、じいさん?

 オレたちよくこの森の奥まで入るけど何もない森だぜ?」

「それはそうだよな。獣たちもそこまで強くないし」

「……いや、森の獣たちは村人にとっちゃ脅威だからな?その感想はお前だけだ」

「でもおじいさんにとってはつまんないところだと思うよ?冒険できるとこなんてないと思う」

「……そんなことはないさ」


 老人は遠い目をして言った。


「いろんな場所に行った。いろんな人と出会い、そして別れた。悲しいことや楽しいことが嵐のように慌ただしく過ぎていった。そんな嵐の日々が過ぎて自分の最期が近づいてきた時にな、ふと思ったんじゃよ」

「……何を?」

「生まれ故郷のことじゃ。そして、ここに辿り着いた」

「えっ?おじいさん、この村の出身なの?」

「……故郷にあった森がこんな感じだったんじゃよ。今のワシは冒険の旅に出ているわけではない、言うなれば思い出を振り返る旅。

 その旅の終着点がここになったわけじゃ。何の変哲もない森かもしれないがワシにとっては故郷の森に似た場所、つい感傷に浸っていたんじゃ」

「……そういうことだったのか」

 

 嘘は言っていないとシンハは思った。老人から哀愁を感じたからだ。

 多くの思いや感情が浮かんでは消えていたのだろう。人生経験の浅い自分ではとてもではないが計り知れないモノだ。


「……ワシの仲間たちにはな、故郷や家族を奪われた者たちもいた。だからこそ、彼らは帰る場所や家族、仲間をとても大切にしていた。……長い旅路を歩んだワシの宝物も同じじゃ。

 坊ちゃんたち、仲が良さそうじゃがその縁は一つの運命。その縁と育んだ故郷での思い出を一日一日大切にするんじゃよ?すべての一日がお主らの旅の終着点を彩っていく。……経験豊富なおじいちゃんのアドバイスじゃ」

「「はい!」」「……」


 老人の言葉は非常に静かだが真に迫るものだった。

 自然と返事に力がこもるソルとアリス。シンハも何か思うところがあったのか、返事はしなかったが何も言い返さなかった。

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