第3話 運命の交差 ー謎の老人ー

「……誰かいるんじゃろう?出てきくれないかい?」


 老人が弱々しい声でこちらへ呼びかけた。

 優しげなその声に気が緩んでしまう。


(どうする?逃げるか?)

(姿見せてもいいんじゃねぇか?昔どっかで会ったことある気がするし大丈夫そうな感じする。……覚えてないけど)

(私も会ったことある気がするし、大丈夫だと思うな。……覚えてないけど)

(……すごい曖昧な回答ありがとよ。オレは会ったことないと思うけど)

(前に村に来たことのある外の人とかじゃない?)

(いやいや、なんで村人も入らないこんな森の奥にいるんだよ、怪しいだろ?もっと警戒しようよ)


「……いるのは分かっておる。そのまま逃げても追わんから、出てきてくれるかどうか、じっくり話し合って行動しなさい」


(完全にいることバレてるじゃん。やるなーあのじいさん!)

(もっと警戒しろ!あきらかにヤバいって!?オレはさっさと逃げるに一票!)

(襲う気ならとっくに襲ってない?今も何もしてこないなら大丈夫でしょ?根拠はないけど、あのおじいさんなら私たちに危害を加えない気がする)

(お前ら……、これオレがおかしいのか?)

(じゃあ、俺だけ話してみるわ!)

(あっお、おい!)


 ソルは謎の老人の前に姿を現す。


「よお、じいさん!隠れちゃって悪かったな!なんで俺たちがいることわかったんだ?」

「ほっほっ、こう見えていろいろな戦場を経験しておるからな。お前さん達程度の気配の消し方なら簡単にわかるわい」

「マジか!結構気配消すの自信あったんだけどなー」


 ソルは少し悔しそうに呟いた。自信があっただけに、未熟さを指摘されてショックを受けた。


「安心せい、お主は我流にしては驚くほど上手じゃ。ちゃんとした者から師事されれば……いや、お主なら自力でももっと上手くなるか」

「何ならじいさんが教えてくれないか?」

「わし何かまだまだじゃよ。もっとすごいやつなど世界にはいくらでもおるよ。昔一緒に旅をした仲間はすごかったぞ?すぐ隣に立たれても気付かないほどじゃったからなぁ。世界の広さを知ったよ……」

「そりゃぁすげぇな!世界にはそんな奴がたくさんいるんだな!本で読んだ通りだぜ!」

「ほっほっほっ……世界は君の想像を超える広さじゃぞ?国を滅した怪物を一人で倒す剣士、風を操り空を飛ぶ魔術師、何百年と生きる種族、村がいくつも入るほどの大劇場……パッと思い出せる記憶でもこんなにあるぞ」

「ほんとかよ!?っく〜、この目で確かめたいぜ!!」


 それからソルと老人は話を続けた。老人の話にソルは興奮を隠しきれなかった。ソルは読書が好きではなかったが、小さな頃から村長の家に設置されている本棚にあった冒険物の本は大好きだった。

 

 特に好きな本は、かつて存在した伝説的な英雄の冒険譚。

 世界的に有名な物語で多くの人たちを冒険に駆り立てた。ソルも例外ではなく、いつか世界に出て冒険をしたいと考えていた。


 そんなソルにとって老人の話は非常に興味深かった。


「……何か盛り上がってるわね、あの二人」

「絶対じいさんの正体のこと聞いてないな、はぁ……」

「どうすんの?私たちも出てく?」

「そうだな。オレらも入って話聞いたほうが良さそうだ」


 結局、シンハとアリスも老人の前に姿を現すのだった。

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