【オシゴトNo.4】黒い棒

はあ。はあ。


ヒロコ先生の荒い息づかいが聞こえる。


はあ。はあ。


そして、それに自分の息づかいも重なる。

お互いの額には、じっとりと汗がにじむ。


「とうふ先生、ずっしりしてますね」

「そうですね。なかなか腕にきますね」


それぞれの手には、ずっしりとした黒くて長い・・・杭。

これを運んでいた。

三本ずつ。


GW明けの5月上旬、今日の放課後は職員総出で、陸上記録会の準備をしている。


明日は、高学年だけで開催される校内の陸上記録会。


5年生担任は、砂場で走り幅跳びの会場を設営していた。

砂場の両サイドに杭を打って、ロープを張り、陸上記録会っぽい会場にしあげている。


トン、カン、トン、カン、


ヒロコ先生に杭を支えてもらいながら、かけや(杭を打つための大きなハンマー)で杭を打つ。


トン、カン、トン、カン、


音が鳴るたびに、杭をしっかりにぎったヒロコ先生の腕が振動で震える。


「そういえば、とうふ先生はGW何をしてたんですか?」

「GWはねー。授業の準備と、YouTubeぐらいしかしてませんね。ヒロコ先生は?」

「私も、同じような感じです。彼氏とかいたら、旅行とか行くんですけどね」


はにかみながら上目遣いで、微笑む。

ヒロコ先生は、彼氏いないのか。そこばかりが気になる。


「とうふ先生は、金曜日の夜って何をしてるんですか?」


おっと。これは・・・


「金曜日の夜は、・・・そうですね。いつもだったら、ラジオの公開生放送を聞きに行ってますよ。ほら、駅前のショッピングセンターの」

「あ、そうなんですね・・・」


トン、カン、トン、カン、


それ以上の会話が続かない。

何か、まずいこと言っただろうか。

もしかして、食事とか、誘ってくれる感じだったのだろうか。

今更聞きづらい雰囲気になってしまい、沈黙のまま作業が進む。


トン、カン、トン、カン、


ヒロコ先生・・・どうして金曜日の夜の予定が聞きたかったんですか!?

心の中で叫んでみた。


僕の気持ちは木綿豆腐のように揺れるのであった。

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