【オシゴトNo.3】白い粉末 ヒロコ先生side
「ふう・・・」
こんなもんかな。明日の授業はこの板書(黒板のレイアウト)でいこう。
私は、時々、放課後の教室で、黒板を書く練習をしているの。
もう教員歴10年だけど、日々精進しないと、学級の子どもたちに悪いからね。
私が子どもの頃は、先生がこんなに授業の準備しているなんて、思ってもみなかったわ。
しかし・・・
パンパンッ
このチョークの白い粉が服に付くのは、10年立っても嫌だなあ。
黒板の代りにホワイトボードとかにならないかしら・・・
そんなことを思っていると、
「ヒロコ先生・・・あの、今いいですか?」
やってきたのは6年生のミズキさん。放課後に子どもが学校に来るなんて、忘れ物を取りにくるぐらいだけど・・・
この子は、このクラスの子じゃないし、そもそも1個上の学年、どうしたのだろう。
「どうしたの?」
「実は、3月の修了式のあと、自分の引き出しの中に手紙を入れていたの忘れてて、そのまま帰っちゃったんです。今まで恥ずかしくて聞けなかったんですけど、春休みとかに、この教室の机の中に入ってませんでした?」
ずいぶん前の忘れ物のことだわ。
恥ずかしくて、今まで聞けないとは、いったいどんな手紙なのだろう。
「ごめん、他の人の消しゴムとか、ノートは入ってたんだけど、手紙はなかったわ」
「そうですか・・・」
ミズキさんは、肩を落としている。
すごくがっかりしている。
「もしかしたら、隣のクラスの机に入ってたかも知れないから、後でとうふ先生・・・サトウ先生に聞いてみるね」
「あ、あ、ありがとうございます。でも、男の先生だったら、いいです。聞かなかったことにしてください」
しどろもどろに答える。
そんなに恥ずかしい手紙なのかな。
一応子どもの願いやプライバシーは、守らなくては。
「わかった。じゃあ、もし、これから見つけたら、ミズキさんに教えに行くね」
「それで、お願いします。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて、早足で帰っていく。
「ふう」
キュッキュッ
黒板消しの音と共に、白い粉末が私に降りかかる。
ケホッ
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