【オシゴトNo.2】いけないイキモノ
4月のとある日の放課後。中庭。
ヒロコ先生と一緒に黄色いバケツを覗き込む。
「可愛いねー。本当にいけないの?」
バケツを覗くために近づいた頭から柑橘系のいい香りがして、鼻をくすぐる。
「本当に、いけません」
「そっか、ざんねーん」
「いけないイキモノなんです」
口を尖らせて、本当に残念そうな顔をしている。
本当に年上だろうか。小動物のような可愛さを感じる。
バケツに入っているのは体長14センチほどのミドリガメだ。
正式にはミシシッピアカミミガメ。外来種だ。
なぜ、ここにカメがいるかというと、うちのクラスのタカヒロが、集団登校の集合場所で拾って来たのだ。
名前はカメ吉。
本人はクラスで飼いたい!と言っていたのだが、休み時間にカメを洗っていたタカヒロの指に噛みついてしまったのだ。
かなり深く右手中指の肉を持っていかれてしまって、すぐに病院に連れていかれたらしい。
「らしい」というのは、その一報を聞いた僕は、豆腐と一緒に手を切った時のことを思い出して、貧血で倒れてしまっていたのだ。
すぐに教頭が保護者に連絡をして事なきを得たが、僕が目を覚したのは、全てが終わったあとだった。
そして、今に至る。
会議で、このカメは学校では飼えないということになったのだが。これをどうするかが問題だ。
外来種を自然に返すことは、禁止されている。かと言って、殺処分するのも、気が引ける。。
「可愛いのにねー」
ヒロコ先生は、まだ名残惜しそうに言っている。
しかし、解決策はまだ決まっていない。
そこへ、用務員のタカドウさんが通りかかって、ミドリガメに気づいた。
「ほほー、ミドリガメかー。昔はよくみんなで飼ってたのう」
「そうなんですよ。でも、会議でこれは飼えないことになってしまって、自然に返すのもダメみたいで、どうしようかと…」
「たしか、市役所で引き取ってくれるんじゃろ。ほら、ブラックバスとか、ブルーギルも引き取ってくれるじゃろ」
自分の顔がパッと明るくなるのが自分でも分かった。
「そうなんですか!ありがとうございます。さっそく電話してみますね」
そして。その日のうちにカメ吉は、小学校を去った。
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